一九七一年、富雄キリスト教会は、破格の安い経費で二度目の建て替えをした。
きっかけはある日曜日の朝のことだった。近くの富雄団地から、若い奥さんが礼拝に来た。ところが彼女は教会の前まで来ると、「あら、これが教会?もっときれいな所と思ったのに・・・」と、中にも入らないで帰ってしまった。そのことを聞いた時、建て直しを決心したが、まだ経済的には微力だった。しかしせめて会堂の玄関に十字架のある塔屋を作れば、少しは見栄えがよくなり、教会の前まで来て「回れ右」する人もいなくなるのではと思ったのである。
私たちの教会も、みんなが自発的に喜んでする献金によって支えられている。約束献金も予約献金もない。教会債もなく、借金もしない。常に与えられた献金で維持し、牧師に支払う給料がゼロでも、会計は赤字決算にはしない。私も必要があれば、新聞配達や、デパートの商品配達もした。夜勤でアイスクリーム工場に行った時は、辞めた後も十数年ほど、アイスクリームを食べたいとも思わなかった。
教会堂改築の献金を週報でお願いした。礼拝の時、小さな献金かごに「会堂建設のために」と書いた献金が入れられた。その年、破格の建築費で会堂が完成し、二階部分を牧師館とした。
以前から私には書斎を持つ夢があった。数年前には製材所で拾った木で枠を作り、ベニヤ板の壁、ビニールトタンの屋根を付けたこともあった。自分でもよくできたと完成を喜んでいたが、その直後に雨が降ると、屋根の勾配を考えていなかったので、溜まった雨水で部屋がびしょ濡れになった。冬は外にいるのと同じようで、暖房器具もなく、朝は部屋の中に霜が降りることもあった。けれども会堂が完成し、牧師館の中にも小さな書斎が与えられ、それからは不自由なく祝福が続いている。
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榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書『天の虫けら』(マルコーシュ・パブリケーション)は、98年に出版された同師の自叙伝。高校生で洗礼を受けてから世界宣教に至るまでの、自身の信仰の歩みを振り返る。