ドブリ・ドブレフ(Dobri Dobrev)さん。日本ではまだあまり知られていないが、自ら貧しいながらも、財政難の教会や修道院の再建のために最も多額の献金をする彼は、自らが住むブルガリアのみならず国際的な反響を呼んでいる。
地元のメディアによると、来月に100歳になるというブルガリア正教会の信徒であるドブリさんは、第二次世界大戦中にミサイルの爆発で耳が遠くなり、農業のほかは年金暮らし。月収は2012年当時で80ユーロ(日本円で約8000円)。「パンは神様がくださる。慈しみ深い人たちが私にパンを持ってきてくれるんだ」と地元メディアに語っている。
雨の降っていない日は、首都ソフィアから43キロ東にあるブルガリア西部の村からソフィアまで毎日旅をし、総主教庁があるアレクサンドル・ネフスキー大聖堂の出入り口でみんなにお辞儀をして、透明なプラスチックのコップを差し出しては寄付金を集めている。彼はそれを自分のためには一切使わず、銀行口座に預けてくれる友人を通じて、全てその大聖堂や修道院に献金をしているという。
「ドブリおじいちゃん」「ドブリ長老」と呼ばれる彼のことを物乞いだという人たちもいる。しかし彼自身は自分の行いは「施しであって、物乞いじゃない」と地元メディアのインタビューで語っている。その一方で、ドブリさんを尊敬する人たちの中には、彼をたたえるウェブサイトを立ち上げて「聖人」と呼ぶ人たちもいる。またフェイスブックでは、ドブリさんのページに「いいね!」をした人が1万人を超えている。
もっとも、ブルガリア正教会では、今のところ彼を聖人とするという発表はしていない。同正教会総主教庁の公式ウェブサイトには、ブルガリア語からの翻訳で観る限り、彼に関する情報もない。しかし、昨年、ユーチューブにアップロードされた同国のテレビ番組がドブリさんを取り上げた動画(The Elder Dobri Dobrev of Baylovo Bulgaria EnglishとDobri Dobrev the saint Eglish Version Translation)には英語字幕が付けられ、その視聴者は6万人前後にものぼっている。
その動画に出てくる同大聖堂の司祭による説明では、ドブリさんは2012年に35700レヴァ(約200万円、当時の為替比率で1レヴァ=約55円)も献金したと記録されており、この何十年もの間では最も多額だという。
その動画でのインタビューで、「テレビは持っていますか?」と聞かれたドブリさんは、「これらのものは悪魔の仕業だ。私は受け入れない」「新聞もだ。それはみんなウソや欺瞞だらけ」と手厳しい。だが、その真摯な信仰生活は、多くの人々の胸を打つ。
正教会のニュースメディアであるプラヴミルは3月、北米セルビア教区のトマス・カジック神父による「捧げる喜び 物乞いをしては教会を築き上げる人」という見出しの英文記事でドブリさんを紹介した。その中でドブリさんはこう語ったという。
「意思には二つあり、一つは神のもの、もう一つは悪魔のもの。そしてそれらは私たちの心の中で戦いを続けている。私たちは神の意思に従うべきだ。神が私たちを助けてくださるように!善意は正しく真のもの。この意思から出てくるものは全て善である」
子どものころにソフィアのアレクサンドル・ネフスキー大聖堂に通っていたという、日本に住むブルガリア出身のあるクリスチャン女性は、本紙に対し英文のメールで、「ドブリ・ドブレフさんのことは初耳です」としながらも、彼に関するそれらの動画や記事を見て、「とても感動的!神様は私たちにとても優しく、愛をもって、思いがけないかたちで諭してくださるのですね」と感想を語ってくれた。