安倍晋三首相が政権発足からちょうど1年を迎えた26日、靖国神社に参拝した。中国や韓国との関係改善が急がれる中、年内の参拝はないという見方が強く、政府関係者らも「意外だった」とする電撃参拝だった。中国や韓国はこれに猛烈に反発しており、在日米大使館も「失望している」とする異例の声明を発表。国内からも「なぜ今なのか」などという批判の声が出ている。
国内の報道によると、安倍首相は同日午前11時半ごろ、首相官邸から公用車で靖国神社に向かった。玉串料3万円は私費で支払い、首相自身は「私人の立場で参拝した」と説明するが、玄関ホールにあたる到着殿では「内閣総理大臣 安倍晋三」と記帳し、本殿前には首相名で花も添えた。
今回の参拝を受けて、中国、韓国の両駐日大使は同日午後、外務省を訪れ、首相の参拝に厳重抗議。また、在日米国大使館は「日本は大切な同盟国であり友好国だが、日本の指導者が近隣諸国との関係を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」とする異例の声明を発表した。
また、成蹊高校在学中の安倍首相を教えた青柳知義さん(74)は毎日新聞の取材に応じ、「やってはならないこと。こんなに戦後民主主義や憲法の精神に無理解とは思わなかった。残念だ。事実上の国家神道の復活を狙いたいのだろうか」と、今回の参拝を痛烈に批判した。
安倍首相の在任中の靖国参拝は第1次政権時代を含めて今回が初めて。現職首相による靖国参拝は、当時の小泉純一郎首相が2006年8月15日に参拝して以来、7年4カ月ぶりとなった。
安倍首相はこれまで、中国や韓国との関係改善のため参拝は見送って来たが、周辺には「1年に1度は参拝する」と明言していたという。中国、韓国との関係改善が急には望めないと判断したことから、第2次政権発足1年目となるこの日を選んだと見られる。しかし、今回の参拝では、中国、韓国政府ばかりではなく、これまで靖国参拝に公式に反対したことがなかった同盟国の米政府からも「失望」という強い表現での批判声明が出たことから、外交的に孤立を深める懸念が強まっている。
日本のキリスト教界では、これまでも靖国神社への首相参拝や、その存在自体に対して反対する声が多く、小泉元首相が参拝した当時には、「私たち平和を求めるキリスト者は、この参拝が、平和を願う人々の思いを踏みにじり、憲法に規定された政教分離原則を侵したことに対して強く抗議します」(日本キリスト教協議会=NCC)、「政府の最高機関である内閣総理大臣が靖国神社参拝行為を繰り返すことによって過去の戦争責任を否定するとともに、新たなる戦争へとこの国を導くことに最大の危惧を抱いている」(日本バプテスト連盟)などとする反対声明を出しており、今回の安倍首相の参拝に対しても批判の声が上がるのは必至と見られる。
一方、安倍首相は参拝時に、談話「恒久平和への誓い」を日本語と英語で発表し、「尊い命を犠牲にされたご英霊に対して、哀悼の誠をささげるとともに、尊崇の念を表し、御霊(みたま)安らかなれとご冥福をお祈りした」などした。また、今回は現職首相としては初めて、靖国神社に合祀されていない外国人を含む戦没者らを慰霊する「鎮霊社」にも参拝するなど、反発を和らげるための一定の配慮も見せた。中国や韓国からの反発については「戦犯を崇拝する行為との誤解に基づく批判がある」と述べており、「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えはない」と語った。