弟子、アナニヤ
使徒の働き9章10節~19節
[1]序
今回は、使徒の働き9章10~19節を味わいます。
まず9章6節をもう一度注意したいのです。主イエスはサウロに、「立ち上がって、町に入りなさい」と指示を与えられ、そして、「そうすれば、あなたのしなければならないことが告げられるはずです」と約束を与えておられます。
今回の箇所10節から19節では、6節後半の約束がダマスコでどのように成就して行くかを、主イエスの弟子・アナニヤを中心に描いています。この約束が実現されて行く中で二つの点が目立ちます。
1. 一つは、主イエスがサウロにご自身の計画を時間をかけ忍耐深く伝え、サウロが一歩一歩それぞれの段階で服従できるように導きなさる事実です。
2. また復活の主イエスは直接すべてをサウロに告げるのでなく、アナニヤを用い、手間暇をかけて、サウロを整えなさる点です。
[2]主イエスとアナニヤ
主イエスがアナニヤ(使徒22章15節参照)に呼びかける様を、「主が彼に幻の中で、『アナニヤよ』と言われたので、『主よ。ここにおります』と答えた」(10節)とルカは描きます。「幻」がどのような状態を指すかすべてを明確に知ることは困難であったとしても、以下のように9章と10章で幻と祈りが堅く結ばれている点は明らかです。
(1)サウロの場合
9章11、12節。サウロの祈りと彼が「幻」で今後の導きを予知することが堅く結ばれています。
(2)コルネリオの場合
10章2節、3節。「午後三時」は、コルネリオが毎日定めに従い祈る時間(3章1節参照)。コルネリオの記事でも、祈りと幻が切り離し得ない。
(3)ペテロの場合
10章9節、「ペテロは祈りをするために屋上に上った」。17節、「ペテロが、いま見た幻はいったいどういうことだろう、と思い惑っていると」。以上から、アナニヤの記事においても、主イエスの弟子アナニヤがいつもの通り忠実に主の御前に祈っているとき、特別な使命・役割を示されたと見るのが自然です。祈りにおいて、主イエスの声を聞き、主イエスに対する従順な思いへと整えられているのです。
従順な心と態度のアナニヤに対して、11節と12節に見る主イエスの命令が与えられます。さらに13節と14節では、アナニヤは自分の知識を述べ、祈りがアナニヤの知識と判断を含め、彼のすべてを注ぎ出すものであることを示しています。けれどもアナニヤが中心ではなく、「しかし、主はこう言われた」(15節)とあるように、主なる神ご自身の計画、意志、言い分が中心です。主イエスのご計画が告げられます(15節)。アナニヤにとって祈りとはこのようなものです。
[3]アナニヤとサウロ
祈る弟子アナニヤは、「そこでアナニヤは出かけて行って」(17節)とあるように、立ち上がり進みます。主の命令を聞くアナニヤは、主から与えられた命令・使命を果たすため生き働き続け、主イエスの弟子の道を歩みます。
サウロのもとに行きアナニヤは、三つのことをなします。
(1)サウロに手を置き
(2)「兄弟サウロ」との呼びかけ
(3)的確なメッセージを伝える
[4]結び
弟子アナニヤの姿を通して、祈りについて教えられます。祈りを通して、聖書を通して基本的に教えられている主なる神のご計画・ご意志に基づき、日常の実践について次第に導かれて行く。
サウロに交わりの手を差し延べていくアナニヤの姿に教えられます。
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宮村武夫(みやむら・たけお)
1939年東京生まれ。日本クリスチャン・カレッジ、ゴードン神学院、ハーバード大学(新約聖書学)、上智大学神学部修了(組織神学)。現在、日本センド派遣会総主事。
主な著訳書に、編著『存在の喜び―もみの木の十年』真文舎、『申命記 新聖書講解シリーズ旧約4』、『コリント人への手紙 第一 新聖書注解 新約2』、『テサロニケ人への手紙 第一、二 新聖書注解 新約3』、『ガラテヤ人への手紙 新実用聖書注解』以上いのちのことば社、F・F・ブルース『ヘブル人への手紙』聖書図書刊行会、他。