しかし、ようやく寝ようとする頃、食物を求める人や、酔っ払った労働者、キリスト教に反感を抱く労働運動家、刃物を持って脅迫しようとするやくざ等が、入れかわり立ちかわりやってきて叩き起こしました。麻薬やアルコール中毒がもたらす被害妄想や、幻覚に陥って刃物が手放せないという物騒な人も来ました。中には、隣家の塀を乗り越えてまで、押し入ってくる者もいます。
私は、これまでお話ししてきたように、五歳でイエス様を信じて以来、刃の下をかいくぐるような思いを何十回もしてきました。そのために、怖いものが何もなくなってしまいました。万軍の主、勝利の主である神が先頭に立って闘ってくださるというのに、恐れる理由がどこにあるでしょうか。私たちは、ただ死に至るまでイエス様に従うのみです。一歩も退くわけにはいきません。
集会中に、玄関の引き戸が何度もぶち壊されました。教会の長老は80歳すぎていましたが、元は腕利きの大工さんでしたので、壊されるたびに直してくれました。とは言え、そんなことをいつまでも繰り返していたのでは、たまったものではありません。集会が始まったら、妨害者が入ってこれないように、玄関の中から太い丸太ん棒でしんばり棒をしておくことにしました。
しかしそうなると、当然、隣近所からの苦情も多くなりました。私の伝道に理解ある家主さんも、そんな苦情を聞かされ続けたのでしょう。三年後、ついに申し訳なさそうに、「立ち退いてほしい」と言ってきました。住宅密集地よりも、商店街のほうが夜遅くまで賑わっていますから、むしろ近隣に迷惑がかからないかもしれないと思いました。それで不動産屋で手頃な借家を捜してもらい、三年契約という約束で引っ越しました。
しかし、引っ越してほっとしたのも束の間、以前と同様、酔っ払いややくざが毎晩のように押しかけてきました。そのため、一か月もたたないうちに家主に言われてしまいました。
「出て行ってくれませんか。ここは商店街なんです。夕方、酔っ払いや、やくざ者やホームレスの人たちにうろうろされては、商売に差し支えますからね」
しかたなく、再び借家をあちこち捜しまわりました。貸してくださるなら、もうどこでもいいからと思って、ようやく見つけ出して引っ越しても、集会を始めますと、何週間もたたないうちに必ず、「出て行ってください」と言われてしまいます。
こうなったら、自前で教会堂を建てるしかありません。そうすれば追い出されずにすみます。私たちは切羽詰まっていました。もう、ありったけの力を尽くして皆で大声で祈りました。
「神様が会堂をくださらなければ、これ以上伝道できないところまで追い詰められてしまったんです。お願いです。会堂をください。どんなぼろ家でもけっこうです」
家に戻っても祈り続け、祈り終えたとたん電話が鳴りだしました。
「もしもし、こちらはエリヤ不動産でございます。台東区日本堤に土地付きの二階建て7.87坪の家が1,380万円で出ておりますが」
当時(1978年)でも、1千万円そこそこの家なんて見つかるものではありませんでした。私は、その家を見ずに購入を申し込みました。
「お値段が手頃なので、他にも欲しがっているお客様がいますが……」
「買います。絶対買いますから、よそに売らないでください」
気前よく返事をしたものの、私のふところには一銭もありません。しかし、祈りがさっそく聞かれたうれしさで、ふところ具合などおかまいなしに、いそいそとその売家を見に行きました。
主人はとび職ですから、元スナックだったというその建物をさっそく点検しはじめました。二階にあがろうとしますと、階段がミシッ、ミシッときしみました。二階の畳は、ところどころへこんでいます。
「ははぁ、この畳は腐っているな。おっ、この柱も少し傾いているよ。うーん、これだと床が抜けそうだ。二階で大勢礼拝に集まったら床が抜けた、なんていうんじゃ、証しにならんよ。その可能性は大ありだな。危ないぞ」
この人は、石橋でもコツコツと叩いて渡るようなタイプで、私とは正反対です。
「いいよ、いいよ、お父さん。畳は入れ替えればいいんだし、床が抜けそうなら鉄骨を入れればいい。もうハレルヤよ。神様がくださるものに、悪いものは一つもないわ」
二階の梁を鉄骨で補強してもらうことを前提に、ともかく購入契約をしました。頭金は主人が「お金は、みんな神様のものだから」と言って支払ってくれました。会社に勤務している次男も、献金してくれました。残額は銀行でローンを組むことにしました。しかしどの銀行でも、住宅ローンの対象は20坪以上となっており、7.85坪では受け入れてくれません。何日も足を棒にしてあちこちの銀行を回ったあげく、とうとう力尽きてしまいました。
私のできることはやり尽くしました。あとは、神様の力に寄りすがるしかありません。こういう時は両手を挙げて、主の御前に賛美することにしています。そうやって、すべてを神様に委ねた時に、神様は立ち上がってくださるのです。自力で進めようとすると、神様の働かれる余地がありません。
♪神様は、その大能の力をもって、ことをなしとげてくださる……。
そんな意味の讃美歌を、心から歌った。
その翌日、住宅綜合センターから電話が入って住宅ローンを契約でき、初めて献堂することができました。二年後の80年には、足立区北千住に聖愛基督福音教会を献堂することもできました(続きはこちら)。
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(本文は森本春子牧師の許可を得、「愛の絶叫(一粒社)」から転載しています。)
森本春子(もりもと・はるこ)牧師の年譜
1929年 熊本県に生まれる。
1934年 福岡で再婚していた前父の養女となる。この頃、初めて教会学校に通い出す。
1944年 福岡高等簿記専門学校卒業。義母の故郷・釜山(韓国)に疎開。
1947年 1人暮らしを始め、行商生活に。
1947年 王継曽と結婚。ソウルに住み、三男二女の母となる。
1953年 朝鮮戦争終息後、孤児たちに炊出しを続け、17人を育てる。
1968年 ソウルに夫を残し、五児を連れて日本に帰る。
1969年 脳卒中で倒れた夫を日本に連れ帰る。夫を介護しながら日本聖書神学校入学。
1972年 同校卒業、善隣キリスト教会伝道師となる。山谷(東京都台東区)で、独立自給伝道を開始する。
1974年 夫の王継曽召天。
1977年 徳野次夫と再婚。広島平和教会と付属神学校と、山谷の教会を兼牧指導。
1978年 山谷に、聖川基督福音教会を献堂。
1979年 この頃から、カナダ、アメリカ、ドイツ、韓国、台湾、中国、ノルウェーなどに宣教。
1980年 北千住(東京都足立区)に、聖愛基督福音教会を献堂。
1992年 NHK総合テレビで山谷伝道を放映。「ロサンゼルス・タイムズ」「ノルウェー・タイムズ」等で報道され、欧米ほか150カ国でテレビ放映。
1994年 「シチズン・オブ・ザ・イヤー賞」受賞。
1998年 「よみがえりの祈祷館」献堂。
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