シリアのイスラム教過激派は、同国の政治的混乱状況に便乗し、キリスト教徒に対する攻撃を激化させている。キリスト教迫害監視団体の国際オープン・ドアーズは、世界の中東に関する注目はエジプト議会選挙とイラクからの米軍撤退に寄せられているものの、シリア国内の状況も悪化しており、特に同国のキリスト教徒に対する迫害は深刻なものであるとの懸念を伝えている。8日、米クリスチャンポスト(CP)が報じた。
オープン・ドアーズCEOのカール・モエラー博士は「シリア国内のキリスト教徒らは、他の中東各国と同様に攻撃の標的とされています。バッシャール・アル=アサド政権に反対する抗議運動が始まるまでは、同国のキリスト教共同体はある程度保護されていました。しかし現在の状況下においては、シリア国内のキリスト教徒たちは、将来の生活を懸念するようになっており、国外への逃亡もせざるを得ないような状況となっています」と述べた。
オープン・ドアーズコミュニケーションスペシャリストのポール・エスタブルックス氏は、米CPに対し、シリアのオープン・ドアーズ活動家が同国で多様な迫害が生じていることを報告していることを明らかにした。同国ではイスラム教過激派が運転するタクシーを利用した二人のキリスト教徒の女性が、タクシーに乗車したまま誘拐される事件が生じたという。
オープン・ドアーズによると、同国のイスラム教過激派のタクシー運転手らは、「シリアで顔を覆っていないすべてのタクシーを利用する女性を傷つける」との誓約をしているという。
シリアのオープン・ドアーズ活動家の報告によると、「イスラム教過激派によって比較的リベラルなイスラム教徒、およびキリスト教徒の女性たちが誘拐、強姦、さらには殺害に遭っています。数カ月前には二人のキリスト教徒の女性が誘拐され、そのうち一人は車内の窓から飛び出して助かりましたが、もう一人の女性は連れ去られてしまいました。その女性は未だ行方不明のままとなっています。このような事件は地方では生じていないのですが、首都のダマスカスで頻繁に生じています。現在ダマスカスにおいて女性の安全は守られていない状況にあるといえます。人々は日々の仕事に忙しく暮らしていますが、より外を出歩くのに注意深くなってきました」という。
エスタブルックス氏はシリアのタクシーで生じた事件は、キリスト教徒に対するイスラム教過激派の迫害という事件に収まらないという。同氏によると、「シリアで軍隊が撤退した場所を中心にイスラム教過激派が乗り込んでくるようになりました。これらの地域をイスラム教過激派が乗っ取ろうとしています。ひとつの権勢が去れば別の権勢がその地位を確保しようとする動きを見せています。キリスト教徒にとっては脅威の日々が続いています。教会が襲撃される事件も生じています」という。
同氏は「シリアのキリスト教徒たちは、自国に住み続けることに対して非常なる懸念を示しています。中東全土にわたって、『アラブの春』はほとんどのキリスト教徒にとって『クリスチャンの冬』を意味するものとなっています。他国への移住問題は、シリア国民の間で最優先懸念事項であるといえるでしょう」と述べている。
シリアは現在紛争直前状態にあり、オープン・ドアーズによると反政府デモを行った数千人ものデモ参加者が殺害されてきたという。同国の統治機能が失われ、経済制裁も行われている状況下にあって、中東におけるシリアの深刻さに注目を向ける必要があることがオープン・ドアーズによって呼びかけられている。
オープン・ドアーズのフィールドワーカーは「イスラム教過激派が同国が無法地帯と化していることを利用しています。ホムス市では、数日間政府軍が撤退したのを受け、スンニ派が街で権力を振るうようになっています。そのようなイスラム教過激派が諸教会に侵入し、物色したりしています」と述べている。
シリアは人口2000万人超を有しており、うち150万人のシリア人がキリスト教徒であると言われている。他にもイラクからシリアに避難してきたキリスト教徒が10万人ほど存在しているという。
エスタブルックス氏はCPに対し、シリアのキリスト教徒は、反政府デモが生じる前は、独裁政権下にあって在る程度公的な存在を認められており、保護もされていたという。しかし現在においてシリアのキリスト教徒の将来については不透明な状態になっており、オープン・ドアーズでは世界中のキリスト教徒たちにシリアの情勢のために祈るよう呼びかけている。オープン・ドアーズはシリアの地方諸教会を今後も物質面・精神面双方において支援して行く予定であるという。
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