問題の解決には3つの方法がある。「力による解決」と「知恵による解決」と「愛による解決」である。力と知恵と愛とは、バラバラなものではなく、同一のものの3つの異なる特性(面)である。すなわち、私たちは皆、この3つの特性を持っているが、問題の種類・性質に応じていずれかの特性を最も生かして、解決することになるのである。神は私たちに、力と愛と慎み(知恵)の霊をくださったと、聖書に書かれている。(テモテ二1章7節)
(1)力による解決
「鳴かなけりゃ殺してやろうホトトギス」と織田信長は歌ったと、言われている。問題を解決する最も原始的な方法は、「力による解決」である。不正なもの、不潔なもの、自分の気にいらないものを、力によって抑圧したり、排除したりするのである。薬による害虫駆除、外科手術による患部切除、体罰による教育、警察権の行使、軍隊による武力行使などが、これに当たる。
神の偉大な力、天地万物の創造主の属性の1つは、言うまでもなくその偉大な力である。神が創造したこの宇宙には、現代科学によって解明されただけでも、1千億の銀河系がある。私たちの太陽系に属する銀河系には2千億の星がある。そうすると、宇宙全体では1千億×2千億の恒星が存在することになる。
秒速30万キロメートルの光が1年かかって届く距離を1光年というが、これは9兆5千億キロメートルである。宇宙全体の直径は150億光年であると言われている。
極小の世界における原子もまた、神の偉大な力によって創られたものである。原子の力は、人類を全滅させるほどの軍事力にもなり、全人類に行きわたる電力にもなる。このように、神の力は私たちの想像をはるかに絶する偉大な力である。
人間の力
神によって創られた人間にも、それぞれにふさわしい力が与えられている。この力は人が生きていくために必要なものである。聖書は、人が力によって問題を解決せざるを得ない場合があることを、必ずしも否定しない。
旧約聖書の多くの部分は、イスラエル民族の戦争の歴史である。神は、選ばれた民であるイスラエル民族に対して常に、「強くあれ。雄雄しくあれ」(ヨシュア記1章9節)と語っている。
「目には目を」「歯には歯を」(出エジプト記21章24節)という有名な言葉も、力による解決を肯定している。ただし、これは加害者に対する償いの限度を規定したものであり、過剰になりがちな復讐行為を公平な限度に抑制したものである。
また、甘やかして育てて矯正不能な悪人にするよりは、むちを加えても子どもを厳しく育てるようにと教えられている。(箴言13章24節)
信仰による力
聖書には、神を信じる者には、その信仰の度合いに応じて、特別な力が与えられることが、各所に約束されている。
例えば、「私は、私を強くしてくださる方(イエス・キリスト)によって、どんなことでもできるのです」(ピリピ4章13節)という聖句である。
かつて、重度の心臓病で医師団から再起不能を宣告され、プロボクシング試合出場資格まで失ったイベンダー・ホーリィフィールドは、この聖句を心から信じることによって奇跡的なカムバックをした。
彼は、この聖句を刺繍したガウンを着てリングに立ち、マイク・タイソンを96年と98年に連続して2度破って、世界ヘビー級チャンピオンの座についている。
また、「もし、神がわたしたちの味方であるなら、だれがわたしたちに敵し得ようか」(ローマ8章31節)、「わたしは主のみ名によって彼らを滅ぼす」(詩篇118節10節)という聖句もある。
聖書ただ一冊のみを抱えてノルマンジー上陸作戦を決行したドワイト・アイゼンハワー(連合軍最高司令官)は、第二次世界大戦の「史上最大の作戦」に完全勝利した。これが連合国側の最終勝利への突破口となった。
即効パワー
一般に力による解決は即効性がある。力を行使することによって、即時に問題が解決されることが多い。この即効パワーがあるために、力による解決は安易に濫用されがちになる。
力による解決は、人間関係においては恐れを伴う。力の威嚇によって人を恐れさせて支配しようとするからである。人は心から納得しなくても、恐れのために速やかに支配されてしまう。
復讐による悪循環
しかし、時間がたつに従って本心の力が回復してきて、報復しようとする力となっていく。そのようにして、お互いに復讐によって対抗しようとする悪循環に陥ってしまう。
この悪循環を断ち切るために、新約聖書は復讐を戒めている。「自分で復讐をしないで、むしろ神の怒りに任せなさい」「悪に負けてはいけない。かえって、善をもって悪に勝ちなさい」(ローマ12章19節、21節)
力による解決の限界
「力による解決」は、特に人間関係については、このように大きな限界がある。武力によって猛威をふるった織田信長は、腹心の家臣・明智光秀に殺されてしまった。力によって倒す者は、力によって倒される。平家物語の「盛者必衰の理」である。イベンダー・ホーリィフィールドも、いつかは世界ヘビー級チャンピオンの座を降りなければならない。神が人に特別な力を与えるのは、その人の利得のためではなく、愛と正義と公平の実現のためであるからである。
佐々木満男(ささき・みつお):弁護士。東京大学法学部卒、モナシュ大学法科大学院卒、法学修士(LL.M)。