クリスチャン作家・三浦綾子の小説『泥流地帯』の舞台となった北海道上富良野町が、小説の映画化に向けて結んでいた製作会社との連携協定を解消した。北海道新聞が22日、報じた。
映画化に向けて同町と協定を結んでいたのは、毎日放送の子会社が出資する映像製作会社「Zipang(ジパング)」(東京都港区)。全国公開の実写映画として2022年に公開することを目指し、20年9月に協定を結んでいた。
同紙によると、協定は来年3月までの予定だったが、現在も製作発表の見通しが立たない状況で、同社による映画化は難しいと判断した。同社は関係者向けの説明会で、製作を開始できない理由として「経営状態が極めて悪い」と説明したという。両者間で金銭的なトラブルはないとされ、同町は今後、別の製作会社を探し、映画化を目指すという。
ジパングは、映像コンテンツの製作やWEBメディアの運営を通じて地域創生支援を行う会社で、主に毎日放送の子会社であるMBSイノベーションドライブが出資。同町と協定を結ぶ前月の20年8月に設立されたばかりの会社だった。
協定では、▽全国公開の実写映画であり、十分な興行収益を期待できる商業作品として、2022年の公開を目指して製作する、▽三浦文学の代表作にふさわしい規模の作品とする(以上、同社)、▽全面的な町内ロケ支援、▽企業版ふるさと納税を活用した製作費支援(以上、同町)を、それぞれの努力義務としていた。
同紙によると、同町が『泥流地帯』の映画化に関して協定を解消するのは、19年に民事再生法の適用を申請した映像製作会社「イメージフィールド」(東京都新宿区)に続いて2回目。
イメージフィールドは、人気テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」や「マジすか学園」などの製作実績のある映像製作会社だったが、一部の大型案件や海外案件で想定以上のコストがかさみ、資金繰りが急激に悪化したとされる。
一方、同紙の23日付けの報道によると、ジパングでは、今年6月に映画化のキーマンだった取締役の男性が退社。同7月に同社が同町に対し、映画化が困難であることを伝達した。その後、同9月の定例町議会で、斉藤繁町長が協定見直しの方針を示していたという。
『泥流地帯』は、1926(大正15)年に発生した十勝岳噴火を描いた作品。噴火により発生した泥流により、苦労して切り開いた田畑を奪われ、家族を失うも、再び鍬(くわ)を手にして復興に挑む若者たちの青春を描く。76年から北海道新聞で連載され、新潮社から『泥流地帯』『続泥流地帯』の2冊が刊行されている。
三浦綾子の作品は、『氷点』『塩狩峠』などが既に映画化されており、同町の有志が18年1月に「『泥流地帯』映画化を進める会」を設立。同年3月には、同町と三浦綾子記念文学館(旭川市)が、映画化を含む文化振興に関する連携協定を結ぶなど、官民を挙げて映画化に向けた機運醸成活動を進めていた。