感染防止の観点から、リモート化を助けるためにインターネットのIT技術が大いに活躍している昨今だが、北朝鮮のような迫害国においては少し事情が違ってくるようだ。
米団体オープン・ドアーズの最もひどい迫害国のリスト50のワールド・ウォッチが調査を開始して以来、長らく北朝鮮は最悪の国にリストされてきた(今年はアフガニスタンとなった)。そのような国々での宣教に威力を発揮するのが、ネットや小さなSDカードに入れたコンテンツ、スマートフォンのアプリなどのデジタルリソースなのだろうと素人目には思うのだが、実際の現場においては必ずしもそうではないというのだ。
そのように指摘するのが、気球で聖書を飛ばし短波ラジオなどを通じて北朝鮮伝道に取り組む「殉教者の声・韓国」(VOMK)だ。VOMKはこの課題でも幾度も取り上げたが、同団体代表のエリック・フォーリー牧師によると、一見便利なこれらのデジタルツールは、場合によっては北朝鮮の地下教会の信者らにとっては命取りになるというのだ。
昨年の8月、タリバンが復権し、およそ20年ぶりにアフガニスタンの政権を掌握した出来事は記憶に新しい。このタリバン政権によって厳しい迫害の対象にされているのが反体制派とキリスト信者なのだが、タリバンがキリスト信者を見つける方法の一つが、なんとスマートフォンだったのだ。タリバンの戦闘員は、キリスト者と思しき者のスマートフォンをチェックする。そして、その中に聖書アプリや信仰者のためのアプリが入っていると、持ち主をキリスト者と断定して処刑した実例が実際にあった。この場合、便利なはずのデジタルデバイスが、タリバンにキリスト者が特定される原因となってしまったのだ。
現代の戦場は大砲や弾丸が飛び交う旧来のものだけではなく、サイバー空間における情報戦も含まれる。そのため、北朝鮮や中国には多くのサイバー専門官がおり、水面下では激しいサイバー戦が繰り広げられている。
VOMKのフォーリー氏によれば、これらのデジタル技術は、キリスト者を特定、追跡するために、北朝鮮体制側に有利に働くリスク要因となるのだという。つまり、デジタルの場合、マルウェアやスパイウェアなどによって利用者を特定、追跡するようなトラップを仕掛けることが可能な上、専門的な知識者でもないかぎり、痕跡やログなどの足跡が消せないわけである。
そこでフォーリー氏は、これらのリスクを回避するために、昔ながらの紙の媒体にこだわって聖書や信者教育のリソースを提供しているという。また短波ラジオによる福音放送や賛美歌も同様に、デジタルのような消せない痕跡を残すことがないのだ。
北朝鮮のように信者が公に集うことができない国においては、短波ラジオから流される賛美歌は非常に効果的な宣教ツールだという。これら短波に乗って届けられる賛美歌は、神学的にも教理的にも正統かつ意義のあるものを選ぶ。歌や曲は覚えるのが容易だ。北朝鮮の信者らは、これらの賛美歌を覚え、霊的に恵まれるだけでなく、正統な教理教育も受けるのだ。
われわれ自由の国の人々には便利なはずのハイテク技術は、自由の保障されていない国や地域では命取りになるケースさえある。主イエスが言われたように、敵の悪巧みを逆手に取るような蛇のような狡猾(こうかつ)さと、正しいことにうなずく鳩のような素直さ、この両面が必要だ。
困難な北朝鮮伝道に取り組む宣教団体と北朝鮮の信者らのために祈っていただきたい。また今も囚われている拉致被害者問題の解決も覚えていただきたい。
■ 北朝鮮の宗教人口
無神論 69.3%
プロテスタント 1・3%
カトリック 0・1%
土着の宗教 15・5%
仏教 0・4%