最近、クリスチャンを名乗る面識のない人から、フェイスブックの友人申請を受けることが多くなり、その中に何やら普通のクリスチャンとは少し違う感じのする人たちが目立つようになってきました。何が違うのかというと、彼(彼女)たちが中国出身で、片言の日本語を使っているという点です。このことは特に問題ではないのですが、さらに彼(彼女)たちが書いている内容を見ると、「全能神」(東方閃電、実際神)という中国系のグループの一部が日本に渡ってきて、フェイスブック上で活発な活動をしていることが見えてきました。そこで、このグループについていろいろと調べましたので、彼らがどのようなグループであるのかを書かせていただきます。まずは、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の一部を引用します。
1970年代末に米国から中華人民共和国に入ってきた教団 The Shouters から派生し、1991年にキリスト教の一派として黒竜江省にて誕生したとされる。創始者は趙維山。中国共産党を「巨大な赤い龍」と呼び、これを倒して新国家を樹立すると主張しているため、2000年より中国当局からは邪教と認定されている。法輪功よりも強い組織力を持ち、一度入信すると脱会することは難しい。信者になれば金銭が支払われるため、近年、中国で拡大している貧富の差を背景に信者を増やしている。
「2012」(映画)が大ヒットした直後、2012年人類滅亡説を唱えだした。2012年に終末思想の流布で当局により約千人が逮捕された。なお、キリスト教系ではあるが、カルトであるとの意見が強く、中国共産党の指導に従う中国天主教愛国会などの団体はもとより、政府の指導を拒否して非合法となっている地下教会の信者も、全能神は異端と認識している。
2014年5月28日、山東省招遠市のマクドナルドの店内で、全能神のメンバー、張立冬ら6人による女性撲殺事件が起こった(2014年山東招遠カルト殺人事件)。張は勧誘のために店内で電話番号を聞いて回っていたが、女性が断ったためとCCTVのインタビューに答えている。
この記述だけを見ると危険なカルトであると即座に断定される人も多いと思いますが、中国共産党は今まで地下教会をも弾圧してきましたので、中国共産党が「邪教」だと認定したからといって、本当にそうだとは限りません。また、マクドナルドの事件は確かに痛ましい事件ではありますが、何百万人もの信徒がいれば、その中の何人かが過激な事件を起こすことはあり得ますので、この事件だけでカルトと断定するのも早計です。イタリア人の宗教社会学者であるマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)氏が、同氏が主幹するビター・ウィンター(Bitter Winter)というニュースサイトに掲載した記事で指摘しているところによると、「事件後の裁判の書類を調査した学者たちは、加害者の集団は『全能神教会』の名を語ったものの、実際には全能神教会の信者ではなく・・・」との調査結果が出ているとのことです。
また、2012年のマヤ文明の予言に基づく世界的な終末思想を唱えたとの批判に関しても、イントロヴィーニャ氏は同サイトで、彼らの立場を次のように擁護しています。
中国政府は、全能神教会の大勢の信者を逮捕する行為を正当化するため、この騒動も利用した。オーストラリア人の学者、エミリー・ダン氏は、2015年に出版された全能神教会のみを取り上げた初めての学術書のなかで、大勢の中国人と同じように「一部の東方閃電の信者はマヤの予言を取り入れていた」ものの、「同団体の有力者を自称する人々から認可を受けていなかったと思われる」と指摘している。
このように見ていくと、一方の主張だけを聞いて「カルト」扱いすることは、つつしまなければいけないことが分かります。
では既存のキリスト教会は、この団体を同じ教えを持ったキリスト教の一つの教派、あるいは教団として認めればよいかというと、そうともいえません。彼らの教えについては彼らのホームページ「神の国降臨の福音」に明確に書かれていますので、その幾つかを吟味してみましょう。
○「中国における終わりの日のキリストの出現と働きの背景についての概要」から抜粋
中国は赤い大きな竜が棲(す)む地であり、有史以来、神が最も激しく拒まれ、非難されてきた場所です。中国は難攻不落の悪魔の砦のようであり、悪魔に支配されている脱走不可能な監獄のようなものです。その上、赤い大きな竜の政権は、あらゆる行政階層において警戒を強化し、各家庭において防衛手段を講じています。その結果、神の福音神の働きの実行が中国より困難な場所はありません。
キリストは中国北部の一般家庭に生まれました。幼少時以来、キリストは心から神を信じていました。普通の人間と同様に徐々に成長しました。1989年、聖霊がハウスチャーチで大規模な御働きを行われていた時、キリストは学業を諦め、ハウスチャーチに正式に加わりました。当時、キリストの心は燃えさかり、神に仕えて自らの本分を尽くすことを熱望していました。その二年後、キリストは心の中の御言葉を書きとめ教会に授けることで、御言葉を発されるようになりました。
○「全能神教会の起源と進展」から抜粋
律法の時代には、神は律法や戒めを制定し、地上で人類の生き方を導くために「ヤーウェ」という名をお使いになりました。恵みの時代には、人類を贖(あがな)う働きを行うために「イエス」の名をお使いなりました。神の国の時代の到来とともに、神の家から始める裁きの働きを実行し、人を清め、人を変え、人を救うために「全能神」という名をお使いになります。
このように見ていくと、彼らの教えがどのようなものであるかが明確に分かります。要点をまとめると、このようになります。
- 中国は有史以来、赤い大きな竜が棲む地であり、中国共産党を赤い大きな竜の政権として批判していること。
- 普通の人間として中国北部に生まれたキリストが、1990年代から御言葉を語り出したということ。
- 神様の新しい名前として「全能神」という名前が啓示されたということ。
彼らがキリストだと主張する人の言葉が具体的にどのようなものであるのかについては、同ホームページの「終わりの日のキリストの語られる言葉(選集)朗読」というところで、多く紹介されています。それも一部を抜粋してみましょう。
○「二度の受肉が受肉の意義を完成させる」から抜粋
神による各段階の働きには実質的な意義がある。イエスが来た時男性であったが、今回は女性である。このことから、神はその働きのために男と女の両方を造ったが、神には性の区別がないことがわかる。神の霊が来るとき、それは意のままにいかなる肉体でも持つことができ、その肉体が神を表す。男性であろうと女性であろうと、それが受肉した神である限り、どちらも神を表す。
○「三位一体は存在するのか(前半)」から抜粋
実のところ、三位一体はこの宇宙のどこにも存在しないことを話しておこう。神には父も子もおらず、ましてや父と子が共同で使う道具、つまり聖霊の概念などない。このすべては最大の誤った考えであり、この世には断じて存在しない。・・・(後半)あなたは三位一体の存在を信じ続けるのか。それはあまりにも厄介だとは思わないのだろうか。三つではなく一つの神を信じるほうがよいであろう。軽いのがもっともよい。「主の荷は軽い」からである。
このように確認してみると、彼らの教義が正統的なキリスト教や聖書の教えから、大きく乖離(かいり)していることが分かります。その中でも一番大きな特徴は、キリストが女性として中国で受肉したと教えている点です。またキリスト教の中心的な教義である「三位一体」を真っ向から否定し、神の新しい名を「全能神」と教えていることからも、正統的なキリスト教とは「異なる教え」であることが分かります。
ところで、この女性キリストは、今どこで何をしているのかという疑問が浮かびますが、全能神のホームページにはそのことが一切触れられていません。それを知る手掛かりは、「毎日頭條」という中国語のニュースサイトに書かれていました。
このサイトには「全能神」関連の記事が幾つも出てきますが、それらを要約すると、女性キリストの名前は楊向彬(ヤン・シャンビン、1973~)であり、大学受験に失敗し精神的に病み、統合失調症となってしまったところを、全能神の教祖・趙維山(ジャオ・ウェイシャン、1951~)により、「女キリスト」に祭り上げられたとのことです。彼は自らを「大祭司」だと称し、彼女の愛人となり、後に彼女を妻とします。そして2人とも、米国に移り住んだようであります。このサイトは、全能神をカルトだと断定しています。
さて、全能神のホームページにも「キリストは学業を諦め」と書かれていたので、内容が一致する部分はありますが、「毎日頭條」も彼らに反対する立場から書かれていますので、この記事もうのみにするのではなく、参考程度に知っておくのがよいかと思います。人は自分たちとは違う教えを持った人たちに対しては、感情的に排他的になりますので、最終的な判断には慎重にならなければなりません。まして中国共産党が彼らを弾圧していることに賛同してはいけません。いかなる宗教であれ、犯罪行為をするような反社会的な集団でない限り、国や社会によって弾圧されるということを、容認してはいけないからです。
では私たちはこのグループをどのように捉えたらよいのでしょうか。そのためには、「カルト」と「異端」という用語の区別をしっかりとつけなければなりません。ウィキペディアに載っている定義を引用します。
カルト(仏:culte、英:cult)は、悪しき集団であることを明確にするために用いられる通俗用語である。良い意味ではなく、反社会的な団体を指す世俗的な異常めいたイメージがほぼ定着し、犯罪行為をするような反社会的な集団を指して使用される。
異端(いたん、英語:heresy, heterodoxy)とは、正統から外れたこと。学説で正統 orthodoxy と対立する異説。系統で正統 legitimacy と対立する異系統。その時代において正統とは認められない思想・信仰・学説などのこと。多数から正統と認められているものに対して、少数によって信じられている宗教・学説など。
彼らは中国共産党を「赤い竜」として批判しており、それを憎むように信者に教えているので、中国当局から見ると「反社会的」な「カルト」に見えるでしょう。しかし、政権批判が言論の自由として認められている民主主義国家から見ると、見え方は正反対になります。ですから、冒頭のイントロヴィーニャ氏のように、欧米には彼らの立場を擁護する人々もいます。実際に内部でどのようなことが行われているのかは分かりませんので、今の時点でカルトかどうかの判断はできませんが、少なくとも一方の論説だけを聞いて、カルト(犯罪行為をするような反社会的な集団)だと断定することはつつしむべきでしょう。
では彼らは、「異端」なのかという問いに対しては、先ほども言いました通り、彼らの教義が正統的なキリスト教や聖書の教えと大きく異なるものであるということは間違いありません。キリストが女性として中国で受肉したということに関しては、イエス・キリスト自身がこのように警告しています。
そのとき、あなたがたに、『そら、キリストがここにいる。』とか、『ほら、あそこにいる。』とか言う者があっても、信じてはいけません。(マルコ13:21)
またキリスト教会には、多くの教団や教派があり、それぞれ強調している点や神学的な理解に差はありますが、カトリック・聖公会・プロテスタント・正教会・東方諸教会の諸派はすべて、三位一体の教義を聖書的な正当な教えとしています。ですから、三位一体を否定する団体を、正統 orthodoxy として認めることはありません。
以上から、クリスチャンが取るべき態度は2つです。1つは、もしも彼らが中国共産党により、投獄や拷問などをされているなら、中国共産党の人権侵害を非難し彼らを擁護するということです。
もう1つは、もしも彼らが自分たちをクリスチャンと称して、私たちを勧誘してくる場合には、彼らが正統なキリスト教とは異なる教えを持ったグループだということを知って、対応するということです。
まだ聖書の理解に自信がなく、彼らに流されてしまいそうであれば、距離を置くのも賢明でしょうし、愛を持って、彼らに接することを示される人もいるかもしれません。
問題は、彼らがクリスチャンだと名乗りながら、フェイスブックのキリスト教グループなどに入会し、そこの人々と「友達」となり、多くの人がそれと気付かずに彼らの投稿に「いいね」ボタンを押し、彼らに影響されていることです。
彼らは自分たちを「全能神」の信者だとは名乗らずに、「クリスチャンです」とだけ名乗るので、多くの有名な牧師や信徒たちが、彼らの「友達」となっています。そしてその事情を知らない人たちは、あの先生の友達であれば、安心だということで、ある種のお墨付きを得た形になり、彼らはそれをテコにフェイスブック上でどんどん友達を増やしていっています。
ですから、フェイスブックのシステムに詳しくない高齢の先生の周りにいる人たちは、これらの事情を説明してあげてほしいと思います。もちろん、異なる教えを持っていようが、誰と友達になるかは各自の自由ですが、知らず知らずのうちに、自分の意図しない結果になってしまうことがあるので、これらのことを知って各自で判断していただければと思います。
※ フェイスブック上の現状に関しては、「全能神」のフェイスブックでの活動に詳しい方から情報提供を頂きました。
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