1. 希望に燃えて
ある青年が夢を持って1人で海外に渡航した。外国の地で思う存分自由に生きてみたかった。家が貧しかったので学業途中から仕送りが途絶え、皿洗い、ウエイター、靴磨き、トイレの掃除夫、ホテルのボーイ、荷物運びの運転手、自分にできるアルバイトは何でもやった。夢があったから、どんな仕事も苦にならなかった。まじめで誠実な性格が評価され、何年も働いて大学の学費を蓄えた。一生懸命勉強してとうとう30代で弁護士になった。
現地の法律事務所に数年勤務した後、独立して自分の事務所を構えた。主に日本人、日本企業の顧問をし、依頼者から信頼を得て、事務所の規模はどんどん大きくなっていった。日本人会の会長にも選ばれ、現地の日本人リーダーの1人になった。誠実な彼は依頼者のニーズに応えるために、1年365日休みなく働き続けた。結婚して家庭にも恵まれ、裕福で幸せな人生を楽しんでいた。すべてが自分の思い通りに運んでいた。まさに、この世の栄光から栄光へと向かっていた。
2. 栄光から暗闇へ
ところがである。ある日突然、数人の警察官が逮捕状を持って自宅にやってきた。手錠をはめられ、パトカーに無理やり乗せられた彼は、そのまま留置場に放り込まれた。ある経済問題のトラブルに巻き込まれ、相手から告訴されたのである。必死に無罪を主張したが、陪審員から有罪が宣告され、一路刑務所へ。弁護士資格はく奪、法律事務所閉鎖、自宅や車を手放し、家族は水道代やバス代にも事欠く困窮生活。栄光から一挙に暗闇へ。
「自分の人生は一体何だったのだろうか。生きていてどんな意味があるのだろうか」。生きる希望と意味を見失った彼は、刑務所の中で絶望のどん底をのたうち回った。何度も自殺を考えた。
3. まことの光を見いだす
そんな時にクリスチャンの知人が聖書を差し入れてくれた。でも聖書は難しくてよく分からない。その知人はネットに掲載されている私のブログやホームページの記事を見つけて、同業の弁護士の記事なら興味を持って読んでくれるのではないかと、それをプリントして次々に差し入れた。
幾つかの記事が彼の心をとらえ、暗闇の中にかすかな光が見えてきた。今度は聖書をむさぼるように読むようになった。小さな光が明るさを増して大きく輝いてきた。今まで見たことのなかった新しい世界が開けてきた。これまでの価値観がどんどん崩れ、新しい価値観に変わってきた。
「すべてを失いましたが、今はそれを惜しいとは思っていません。この世の光の中では決して見えなかった本当の光を、絶望という暗闇の中で見つけることができたからです。これからは新しい夢を持って歩んでいきます」
彼は今、喜びを持って人々に自分の希望を語っている。すべての人を照らすまことの光の伝道者として歩みたいという夢である。暗闇の中に住んでおられる光の主と出会ったのである。
モーセは神のおられる暗闇に近づいて行った。(出エジプト20:21)
ソロモンは言った。「主は暗闇に住むと仰せられました」(2歴代誌6:1)
光は闇の中に輝いている。そして、闇はこれに勝たなかった。(ヨハネ1:5)
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