不動産を扱うオクダ商事とオクダ建設(共に東京都福生市)の社長である奥田英男さん(55)。2つの会社の黒字を30年以上続ける経営者としての顔を持つ一方、JTJ宣教神学校を卒業し、檜原(ひのはら)福音教会の協力教師も務める。そんな奥田さんに話を聞いた。
「1985年、23歳の時に父親が倒れて、事業を引き継ぐことになり、代表取締役に就任しました。当時、会社が抱えていた負債は8億5千万円。本来なら倒産して当然という状況でしたが、父が興した会社をつぶすわけにいかないと、再建を決心しました」
父親は特定の人にだけ、数万円もするお中元やお歳暮を贈っていた。しかし、奥田さんが経営に携わるようになってから、アパートの管理を任されている多くの地主や家主にも届けるようにしたのだ。感謝の思いを表すため、一律数千円の品物を持って一軒一軒自分の足で出向いたという。そのかいもあり、それからは年々右肩上がりで地主や家主も増え続け、仕事もどんどん拡大していった。
父親の事業を受け継いでから8年間、昼夜を問わず、がむしゃらに働いた奥田さんは、当時の自身を「富と仕事の奴隷でした」と振り返る。31歳まで、すべてを仕事に費やし、1996年には負債を完済し、社屋を建て替えるまでに会社を成長させることもできた。
ところが、自社ビルの屋上から富士山を眺めている、まさに「人生の絶頂」ともいうべき時、奥田さんの心は折れたのだ。過去最高の売上を上げたにもかかわらず、奥田さんは心にぽっかりと大きな穴が空いているのを感じたという。その後は働く意欲を失ってしまい、うつ状態で外に出られなくなった時期もあった。
「今の時代は物質主義に支配されていて、物質が豊かであることが幸せの条件であるかのように考えられています。しかし、私自身が実際に欲しかったすべてのものを得たときに感じたものは、空虚でした。それらを手に入れた瞬間は、喜びがあるかもしれません。でも、その喜びには永続性がないのです。心が満たされていないから朽ちてしまうんです」
そう確信した奥田さんは、心を豊かにするためにはどうしたらいいかと模索する中、43歳の時に聖書に出会った。
「負債を完済した31歳以降、とにかく勉強をしました。宗教や哲学からオカルト、占いまで、あらゆるジャンルの本を読んで学んだのですが、どれもしっくりとこなかったのです。ところが、聖書を読み始めてすぐに『これだ』と思いました。聖書は宗教書ではなく、歴史書であり、人生における指南書であることを知りました。
神様はこの世のすべての人を、目的を持って創造されました。その目的とは、愛し合うことに他なりません。多くの人が、愛のない人間関係に疲れ果てていたり、ありのままの自分を愛してほしいと願ったりしているのではないでしょうか。かつては私自身もそうでしたが、聖書を学ぶ中で、自らの尊厳、アイデンティティーを回復しました。
その過程で、50年近く疎遠になっていた実の母との関係も回復したのです。産みの母は私が3歳の時に離婚したため、私は『捨てられた』と思い、ずっと赦(ゆる)せなかったのですが、再会を果たし、これまで抱えていた苦い思いが嘘(うそ)のように消えました。また、社員やお客様の中でも神の愛による回復が次々となされており、共に喜びにあずかれる恵みに感謝する毎日です」
このように自身が葛藤してきたからこそ、同じように苦しみ、金銭や物質、目に見える利益にとらわれている人のことも深く理解できるという。また日本では、年間約3万人が自ら命を絶つといわれており、過労死についても問題視されて久しい。こうした状況に危機感を覚え、少しでも悩める人たちの生きるヒントになればという思いから、奥田さんは『いつも喜んでいる人の7つの秘訣』(ミリオン・スマイル)を2年前に世に出した。
「生きる目的が分からないという人や、何をやっても満たされないと感じている人にとって、この本が新しい目標を見つけ、聖書やキリストの教えに興味を持つきっかけになればと思っています。気軽に手に取っていただけたらうれしいです」
奥田英男著『いつも喜んでいる人の7つの秘訣』
2015年10月1日初版
ミリオン・スマイル
118ページ
1000円(税別)