【CJC=東京】旧ソ連時代の反体制作家で1970年にノーベル文学賞を受賞したアレクサンドル・ソルジェニーツィン氏が8月3日深夜、モスクワ郊外の自宅で死去した。89歳。死因は急性心不全。「収容所群島」など旧ソ連の全体主義を告発した著作で知られ、反体制派の象徴的な存在だった。
ロシア革命の翌年の1918年生まれ。スターリンを批判したとして45年逮捕され、8年間強制収容所で過ごした経験をもとに「イワン・デニーソビッチの1日」などを発表した。74年、市民権をはく奪されて国外追放となり、76年に欧州から米国に移住、スタンフォード大学フーバー研究所を経て、母国に気候の似たバーモント州で過ごした。旧ソ連崩壊後の94年に20年ぶりに帰国した。
「彼は母国や西側の統治者にも率直に語ることが出来、人間に対しても、真実を語ることを恐れず、流行や世論の奴隷にもならなかった」とモスクワ総主教座対外教会部門のフセフォロド・シャプリン副議長は、インターファクス通信に語った。
同主教座の公式サイトでは同氏を「愛国的な正教組織の精神的指導者の1人」と評価している。
同氏が国外追放期の大半を過ごした米国では、主要紙が長文の評伝を一斉に掲載した。いずれも東西冷戦下で、ソ連共産党による独裁政治の実相を文学を通じて告発した文学的な功績と同時に、米国など自由主義陣営に文明批評を加えたことなどに焦点を当てている。
米国に向けられた批評として、各紙は78年に行われたハーバード大学での演説を取り上げている。物質文明の退廃を批判した演説で、同氏は「道徳的な規範によってのみ、西側は共産陣営の世界戦略に対抗し得る」と警告していた。
ロシア大統領府が6日明らかにしたところによると、メドベージェフ大統領はソルジェニーツィン氏の名前を冠した奨学金を設けるよう政府に命じる大統領令に署名した。大統領はまた、モスクワ市に対し、通りの一つにソルジェニーツィン氏の名前を付けるよう勧告した。
葬儀は6日、モスクワのロシア正教会ドンスコイ修道院で行われ、市民約1000人の市民が集まった。メドベージェフ大統領も休暇を中断、参列した。プーチン首相は5日に弔問。遺体はソルジェニーツィン氏の生前の希望に従って、修道院の墓地に埋葬された。