前に進もうと思っているのに、途中で邪魔が入ったり、自分自身が精神的にまいったりして、どうしていいか分からなくなることはないだろうか。そんな時、こわばった心をマッサージして信仰を回復させてくれる、そんな本がキリスト新聞社から昨年11月に刊行された。『人生の後半戦とメンタルヘルス』 (キリスト教カウンセリング講座ブックレット)だ。
著者の藤掛明氏は浦和福音自由教会(坂野慧吉=けいきち=牧師)の教会員で、長年、心理カウンセラーをしながら、「牧会ジャーナル」の編集にも携わってきた。現在、聖学院大学准教授として同大総合研究所カウンセリング研究センター、大学院、大学の人間福祉部こども心理学科で教えている。
その傍ら、この10年余り、各地のキリスト教会や牧師研修会などで講演も行ってきた。多くの著書・共著書があるが、本書は身近なテーマの4つの講演が収められており、また140ページのブックレットなので、誰にでも読みやすい1冊となっている。
第1章 ストレスとメンタルヘルス
第2章 人生後半戦という視点
第3章 時間の使い方
第4章 ストレスと問題行動
第1章では、「ストレスとどう付き合うか」など、日々感じているストレスについて理解を深めることができ、また実際にそれにどう対処すればいいか、その方法も示されている。「気晴らし」「視野を広げる」「語り合う」といった具体的なアドバイスのほか、「自分の物語に生きる」「2つの世界を見つめる」といった考え方には深い示唆が与えられ、励まされる。
第2章では、「人生後半戦」、つまり「中年期への移行の際の危機こそ、人生最大の危機」であると語り、「人生の登り道・下り道」「人生を折り返す」「夕暮れに備えるには」など、今、立ち止まって自分のこれまでの道のりとこれからの歩みを考えるための興味深い視点が提供される。
第3章は、「生活管理や時間の使い方」について。「忙しさのストレスから解放される最大のコツは、数ある課題に翻弄(ほんろう)されることなく、むしろ絞り込んで集中すること」として、「見切る」「没頭する」「分解する」「優先順位を意識する」などのやり方を提案する。さらに、「個人的な儀式や習慣をつくる」「時を待つ」「休む決断をする」「断る」「委ねる」「模倣する」といった助言も非常に参考になる。
第4章では、「困った人の理解と援助」というタイトルで講演してきた内容が述べられる。その中には、まわりで問題行動を起こす人だけでなく、牧師や信仰者自身の不祥事など、自らの問題を深く理解するための洞察もある。「問題を抱えた強行突破型の人とのかかわりでいちばん大切なことは、カウンセリング技術でも、知識でもありません。彼らとかかわるその人が、彼らの横柄で自己本位な言動に怒るのではなく、その裏側にある彼らの無力感や疎外感のやりくり、すなわち強い自分、寂しくない自分を求めようとして息切れし、うめいている姿を受けとめることです」(117ページ)
巻末には「付章」として著者の「お気に入り図書」リストが掲載されているのも嬉しい配慮だ。例えば、第3章の「時間の使い方」については、佐藤敏夫『忍耐について』(日本キリスト教団出版局)やケン・シゲマツ『忙しい人を支える賢者の生活リズム』(いのちのことば社)といった神学書、信仰書から、R・コッチ『新版 人生を変える80対20の法則』(CCCメディアハウス)など一般書も紹介されている。
最後に、著者が「究極のメンタルヘルス」として語っている部分を引用しておこう。
「私たちは、現在の環境が劇的に変わることを願います。そして自分がとびきり良い方向に変わることについても願います。しかし、環境が変わらずとも、自分の実力が変わらずとも、今の自分のままで、すでに備えられている小さな喜びやささやかな希望を見出すことが肝心なのです。・・・このように、小さな喜びやささやかな希望に目をとめることは、信仰者として大切な生き方であるし、究極のメンタルヘルスの姿であると私は思うのです」(46〜47ページ)
藤掛明著『人生の後半戦とメンタルヘルス』(キリスト教カウンセリング講座ブックレット)
2016年11月25日初版
A5判 140ページ
キリスト新聞社
定価1500円(税別)