十字架刑の後、イエス・キリストの遺体が置かれていたと多くのキリスト教徒から信じられている石墓の覆いが取り除かれ、数世紀ぶりにむき出しの状態になった。「イエスの墓」として信じられているこの石墓は、エルサレムの聖墳墓教会内にあり、長年、大理石で覆われていた。
ナショナル・ジオグラフィック協会のウェブサイトによると、同協会所属の考古学者フレデリック・ヒーバート氏は、「石墓の大理石の覆いを取り除くと、その下の空間には充填材が詰められており、その量の多さに驚きました」と語った。
「長い期間をかけて科学的に分析されることになりますが、キリストの遺体が置かれていたと伝えられてきた石の表面を、ついに見ることができます」
聖墳墓教会には、毎年数十万人の巡礼者が訪れる。所有権や管理責任は、アルメニア正教会やギリシャ正教会、カトリック教会などの間で複雑に分担されている。
聖墳墓教会は現在、修復作業が行われている。訪問者の呼気(こき)で生じる結露に長年さらされ、近くで長時間燃えるろうそくの熱で損傷したためだ。
教会堂の中心部にはエディクラと呼ばれる小宮があり、その中に「イエスの墓」と考えられている石墓がある。聖墳墓教会で行われている修復作業は、このエディクラに対するもので、費用は340万ドル(約3億5千万円)に上る。現在のエディクラは、1810年に今の形に造られたとされており、今回の修復作業で徹底的に造り直されることになっている。
修復作業では、大理石の板を取り除き、エディクラの下にある12世紀の十字軍時代に建てられた小宮を修復し、その下にある墓の岩の割れ目をふさぐ作業などが行われる予定だ。騒音が出る作業は、巡礼者の混乱を最小限に抑えるため夜間に行れている。
修復作業の科学部門の監督主任を務めるアテネ国立技術大学建築学部のアントニア・モロポーロー教授は、自身が率いるチームが「エディクラ修復の要となる瞬間」に到達したと、ナショナル・ジオグラフィック協会に語った。
「このユニークな記念碑をデータ化するために使用している技術のおかげで、世界は後日、私たちの調査結果を研究することができるようになります。まるでデータの記録者が、キリストの墓の中にいたかのような精密さでです」と、教授は付け加えた。
石墓が露出するのをエディクラ外部で待ち構えていた正教会のエルサレム総主教セオフィロス3世は、露出の瞬間には「特殊な雰囲気があった」と述べた。
「ここにはフランシスコ会修道士、アルメニア正教徒、ギリシャ正教徒、イスラム教徒の守衛、またユダヤ人の警察官がいます」「この出来事を通して、不可能も可能になり得るというメッセージが伝わることを私たちは願い、祈ります。私たちは皆、平和と相互の尊重を必要としているからです」と総主教は付け加えた。