信州は佐久市に「おとなのための絵本」をコンセプトにした小さな絵本屋「ノエル(NOEL)」がある。店主である高津恵子さん自らが集めた、新刊はもちろん、現在絶版中の古書店からの掘り出しものまで、選りすぐりの絵本約500冊が集められている。
絵本というと、子どもが読むもの、というイメージが先行するかもしれないが、高津さんは「絵本は子どもたちだけのものじゃない」と話す。まさに絵本のプロフェッショナルといえる高津さんが今月、世に出ているたくさんの絵本の中から出会ったという、素晴らしい絵本12冊を紹介する『心に寄り添うおとなの絵本』(イーグレープ)を出版した。
確かに、絵本は子どもが読むものだ。まだ文字が読めない子どもに読み聞かせるためや、文字が少し読めるようになった子どもが自分の力で読むための配慮がなされている。漢字が読めるようになれば、読書が好きな子どもは、どんどん文字の細かな本に挑戦するようになるし、読書が好きでないという子どもは、とうの昔に絵本を開かなくなっている。
そうするうちに、気付けば絵本が、幼い頃の記憶の中の思い出の一つになってしまった。あなたもそんな「おとな」の一人ではないだろうか。
もしかすれば、思い出の中にも絵本は登場しない、という大人も多いのかもしれない。ひざの上に抱っこして絵本を読んでくれるお父さん、寝入るまでベッドで一緒に横になって絵本を読んでくれるお母さん・・・理想的な温かい家族のイメージに絵本はつきものだが、現実では必ずしもよく見られる光景とはいえないようだ。
高津さんは「絵本の持つ不思議な力、そこに深い神様の処方箋のような力を感じる」というが、確かに絵本を開くと、なぜか印象深く胸に入り込んでくる文章と、心が優しく楽しくなるような挿絵の持つ大きな力を感じる。実際、世に出回る絵本の出版元を見ると、いのちのことば社、女子パウロ会、福音館書店・・・と、圧倒的にキリスト教関係が多い。クリスチャンが意識している以上に絵本とキリスト教のつながりが深いことを覚えると、その力は、絵本を通して私たちに語り掛ける聖書の神からきているような気がする。
感謝する心、愛する心、命の大切さ、死んだ後のこと―大の大人でも説明の難しいことを、絵本は教えてくれる。傷ついたときの慰め、気落ちしたときの励まし、絶望の時の希望を、絵本は与えてくれる。それは子どもたちの豊かな成長を助けてくれると同時に、他人の声や、聖書の言葉に耳を貸せないような状況に陥っている大人をも救い出してくれるだろう。
居場所がないと感じる、友人とうまくいかない、大切な人が病気になった、どこか満たされない。本書で紹介される絵本も、そうそう甘くない現実で頑張る大人たちへ、クリスチャン絵本作家たちが贈る愛の言葉で溢れている。絵本の紹介とともに、高津さん自身が実際に体験したエピソードがふんだんに盛り込まれている。現実を忘れるためにおとぎ話に逃げるというのではなく、現実に立ち向かう力が湧いてくる1冊だ。
ああ、今の自分に必要なのは、1冊の絵本かもしれない―そう思ったら、まずは『心に寄り添うおとなの絵本』を手に取ってみてほしい。近所の本屋に足を運んでも、絵本コーナーはわずかなスペースしか設けられていないことがほとんどだ。しかし、小さな絵本屋といっても500冊の取りそろえがあることからも分かる通り、絵本の世界は広く、奥深い。この本を開けば、12冊の絵本があなたの道案内となってくれるに違いない。
高津恵子著『心に寄り添うおとなの絵本』3月7日、イーグレープ、定価1600円(税抜)