スペイン、バルセロナのシンボル、サグラダ・ファミリア(聖家族)は、2005年に世界遺産に登録され、年間300万人を超える世界中からの観光客を魅了している。この教会を有名にしているのは、なんといっても、1882年の着工以来、133年経った現在に至るまで完成していない建築物であるという点だ。かつては、完成までに300年を要すると言われていたが、最近、2026年完成予定であるという公式発表がなされ、世間を賑わした。この年はちょうど、サグラダ・ファミリアを構想した建築家、アントニ・ガウディの没後100周年にあたる。
この世紀の一大プロジェクトは、いかにして2026年完成予定となったのであろうか。建築を手掛けた天才建築家ガウディに迫り、スタッフしか入ることのできない工事現場の映像や、建築関係者らのインタビューによってこのプロジェクトを解明するドキュメンタリー映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』が、12日から全国で順次公開される。
監督は、チューリヒ生まれのステファン・ハウプト。彼が「この映画が描き出すのは、サグラダ・ファミリアの伝記である」と話す通り、物語は1882年、教会の着工時から始まる。どのような歴史的背景の中でこの教会建築が始められたのか、なぜ初代建築家から2代目建築家ガウディに建築プランが引き継がれることになったのか、1990年代に完成するはずだった建築プランをガウディは何を目指してこれほどまでに大きく膨らませたのか。サグラダ・ファミリアの名を知っている人であっても、知る人は少ないであろう始まりの物語を知ることができる映画だ。
サグラダ・ファミリアの建築工事は、第一次世界大戦、スペイン内戦など数々の試練をくぐり抜けてもなお、今に至るまで続けられている。ガウディの死後、その仕事を受け継いだ人々を駆り立てているものは何なのであろうか。しかも、この映画が明らかにするのは、非常に多くの人々がこのプロジェクトに携わっているという事実だ。
設計を担当する建築家に、建築現場をまとめる現場監督、ガウディが残した模型を復元する模型室主任、ステンドグラスデザイナーにステンドグラス職人など。その多岐にわたる仕事内容だけでなく、聖職者から、自分は無神論者だと断言する彫刻家まで、多様な人々がサグラダ・ファミリアの名のもとに集まっているのが興味深い点だ。また、復元されたガウディの模型をもとに、石を彫っている彫刻家の一人は、日本人。かつては仏教徒だったという外尾悦郎氏は、30年にわたってガウディを追い求めていく過程で、ガウディ本人を見つめるのではなく、彼が見たものを見るべきだと、カトリックに改宗したのだというから、同じ日本人には必見ともいうべき映画かもしれない。
ハウプト監督は、この伝記的映画の態度を「本質を内側から」と表現する。サグラダ・ファミリアの歴史、仕事現場の様子、完成に向かう現在のサグラダ・ファミリアが抱える問題を現実のこととして、リアリティー溢れる映像で映し出すとともに、そこに生きる人々の語る言葉を通して、その巨大聖堂の内側にある目に見えない本質を伝えることに成功している映画だ。
映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』は、12日からYEBISU GARDEN CHINEMA他、全国で順次公開される。
■ 映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』予告編