自殺予防を主な活動目的とする英国のキリスト教系慈善団体「サマリタンズ」は、10月末にツイッターを利用する無料プログラム「サマリタンズ・レーダー」を発表した。
これはツイッターで行われた投稿を検索し、知人が自殺を示唆するメッセージを投稿した場合に通知するというサービス。直接的に自殺をほのめかす発言以外にも、「助けて」や「疲れた」「話し相手がほしい」など関連がありそうな語句を検知し、その発言者のフォロワーの中でこのアプリをインストールしているユーザーがいれば、メールで注意喚起をする仕組みとなっている。発言者にはモニターされていることは知らされない。
サマリタンズは、英国国教会の牧師チャド・バラー氏が1953年に創立した慈善団体。自身の教区内で少女が自殺してしまい、「気軽に悩みを話せる人が身近にいたならば防ぐことができたはずであった」と反省。その後、人々が気軽に訪れることができ、相談に対して個人的な判断を下さず、秘密厳守を徹底した相談の場を提供し始めた。
電話での相談にも対応し始め、自殺以外の各種相談にも応じるようになった。現在では英国全土およびアイルランドに200以上の支部を持ち、電話や面接、メール、携帯電話のショートメールでの相談を行なっている。留学生や単身赴任などの人にも対応するため、英語以外の言語のラインも用意されており、その中には日本語も含まれる。
英国で大きな話題になったこのアプリだが、今のところ「善意を気取ったおせっかい」といった批判の声が賛同を大幅に上回っているという。
発言が本気か、冗談か、あるいは皮肉なのかなどのニュアンスの判断ができていない、誰にモニターされているか分からない、感情や感想を自由に表現できない、といった声も上がっている。
また、悪意や面白半分で自殺を勧めたり、一緒に心中する人を探すグループが利用すれば、標的となりそうな人を簡単に探し出せるという懸念や、個人情報保護法に触れるという指摘もある。
批判を重く見たサマリタンズはサービスを一時停止し、善後策を検討している。その一方で、「慈善団体は今まで、デジタル・テクノロジーを寄付集めのみに利用していたが、実際の活動目的のために使うのは画期的」と、DV防止団体など、類似した活動を行っている団体からは賛同の声も上がっている。
サマリタンズ側のスポークスパーソンは、英ガーディアン紙のインタビューに応え、悩みを抱える人が、ソーシャル・メディアなどを通して助けを求め、間接的なメッセージを発信することは学術調査で明らかになっているなどと、今回のアプリを作った理由を説明している。
また、ツイッターの担当者も「デジタル空間における新たな支援方法の実験」と述べ、サマリタンズのアプリを評価している。