【トゥールーズ(仏)=ENI・CJC】(ホアン・ミシェル記)世界福音同盟(WEA)系の神学者トーマス・シルマハー氏は、伝統的プロテスタント、英国国教会、正教会とカトリック教会によって同意された、キリスト教への改宗に関する行動規範を、福音派も支持する準備が出来ていると言う。
「福音派とエキュメニカルなキリスト者とが、この問題で今日ほど接近したことはなかった。30年前には出来ないとされていたことが達成可能になった」と語るシルマハー氏はドイツの神学者で世界福音同盟宗教の自由国際研究所議長。「この種の合意に、このような広範なキリスト者の支援が見られることは初めてだろう」と言う。
シルマハー氏は、バチカン(ローマ教皇庁)諸宗教対話評議会と世界教会協議会(WCC)の宗教間対話と協力に関するプログラムが共催し、トゥールーズで8月8〜12日に開催された協議で講演した際に指摘したもの。協議にはカトリック、正教会、プロテスタント、ペンテコステ派、福音派の神学者や教会代表約30人が出席、改宗に関する行動規範作成を進めた。行動規範は2010年までに完成することを目指している。
シルマハー氏にとって、規範は「宗教の自由によって保護された、受け入れ可能な宣教形態と、人々を改宗させようとする過激な形態の間の境界線を確立する」ためのもの。しかし同氏は、異なった歴史的、宗教的、文化的、政治的関係の中で、明確な行動規範で「非倫理的な手段」を束縛することの困難さを認めた。ペンテコステ派や福音派キリスト者の中には、積極的な改宗を行っているとして他派や他宗教からの批判にさらされている人たちもいるからだ。
それだけでなく、カトリック、プロテスタント、正教会など各派の間では、1教派が伝統的に優勢な領域に食い込む「羊泥棒」と呼ばれる問題をめぐっても緊張が高まっている。
自らの信仰を伝える権利を保持する中で、行動規範はいかなる宗教の信仰者に対する敬意も強調する、とマレーシア教会協議会のヘルメン・シャストリ総幹事(世界教会協議会信仰職制委員会共同議長)は指摘する。「宗教を説く者は、真理を独占する宗教はなく、救いを見つけるには様々な道があると教わる必要がある」と言う。
伝道活動は、「他の宗教を過小評価したり非難する点で卑屈になること」は避ける必要がある、とインドのフィオレッロ・マスカレンハス氏(イエズス会士、国際カトリック・カリスマ運動指導者)は断言した。むしろ伝道は「宗教間の対話、宗教的調和と福祉プロジェクトへの心からの協力」を促進するべきなのだ、と言う。
米国のペンテコステ派系『チャーチ・オブ・ゴッド』の牧師で神学者のトニー・リッチー氏にとっては、行動規範は「攻撃的な福音伝道」ではなく「対話的な福音伝道」という概念を核に築き上げなければならない。同氏は、そのような福音伝道がエネルギッシュで、熱心なものではあるが、高圧的でも偽装的でもないと信じており、また適切な福音伝道は、姿勢ではエキュメニカルで、倫理的行動を意識する必要があると説明する。
世界福音同盟常議員のジョン・ラングロイ弁護士も、トゥールーズ会議に出席、行動規範について「他宗教に対する優越心が打破されたことを明らかにするため、過去の悪行を悔悟する表現」と語った。
シルマハー氏は、福音派が「過度の圧力」とか「宣教の名に於いて人権を侵害した」ことを遺憾とする一方、「キリスト教の全教派が自己反省する必要がある」と強調した。想定されている行動規範は、「福音派やペンテコステ派に向けてではなく、共に作成されなくては意味がないとして、世界福音同盟の「関与と祝福が、尊敬される福音伝道のため、福音派やペンテコステ派の中の“困り者”に打ち勝つために重要」と、シルマハー氏は語った。
スウェーデンの神学者で世界教会協議会の宗教間対話と協力計画の指導者ハンス・ウッコ氏は「プロテスタント、正教会、カトリック、ペンテコステ派、福音派が複雑な問題を共に論議出来るという事実自体が成功なのだ」と言う。
これまでの経過は予備的な性格のものであることを強調すると同時に、ウッコ氏は、行動規範が「攻撃的な改宗」と「福音伝道」とを区別し、伝道命令と自由選択の権利の間のバランスを取る、と語った。
しかし行動規範をどのように実施するかは未解決のまま残っている。世界福音同盟も世界教会協議会も、加盟教会を支配する正式権限はない。また行動規範がカトリック教会内で公式方針になりそうにないことも明らかだ。
ペンテコステ派に関しては、「何かすることを、誰も全員に強制出来ない」とリッチー氏は言う。しかし「仲間の積極的な圧力というパワーはかなり効果的だろう」と示唆した。
(注:ホアン・ミシェル氏は、世界教会協議会広報担当)