日本語で書き下ろす聖書注解シリーズ「VTJ/NTJ」(VTJ=Vetus Testamentum Japonicum・旧約聖書注解、NTJ=Novum Testamentum Japonicum・新約聖書注解)の「マタイ福音書注解」(執筆者:須藤伊知郎)の見本原稿がこのほど公開された。
今回公開された見本は、マタイ福音書の1章1節の部分の「表題」と、同1章2〜17節の部分の「イエス・キリストの系図」。
「イエス・キリストの系図」では、アブラハムからダビデ、またバビロン強制移住(捕囚)、イエス・キリストの系図を示すにあたり、14世代が3回繰り返されるパターン(実際には3回目は13世代しかない)があることを指摘し、「私たちはこの系図をイエスの実際の戸籍簿として扱うのではなく、ここに込められた進行のメッセージを聴き取るべきである」と説明する。さらに、図説とともに、現在までに考えられている4つの解釈などについて解説している。
日本語で書き下ろす聖書注解シリーズは、マルティン・ルターの宗教改革から500年目となる2017年に刊行が予定されている。宗教改革は、キリスト教が拠って立つ聖書を一般信徒の手に返したという意味で、画期的な出来事であり、同シリーズは「聖書には新しい時代を拓く力が宿っている」という確信のもと、宗教改革500年の記念の年に刊行を目指している。
特徴としては、1)日本語で書き下ろされており、読みやすい、2)原典の文書・文体・文法・語彙の特徴がわかる、3)聖書各書の歴史的・文化的・社会的背景がわかる、4)先入観に支配されず、聖書が提起している問題を理解できる、5)聖書の理解を通して、現代社会への深い洞察を得ることができる、の5つを上げている。
今年5月からは毎月、NTJ(新約聖書注解)の見本原稿を公開しており、これまでにガラテヤ書(執筆者:浅野淳博)、ヨハネ福音書(執筆者:伊東寿泰)、第一・第二ペトロ書、ユダ書(執筆者:辻学)が公開されている。また、今後も、12月はマタイ福音書(執筆者:須藤伊知郎)、来年1月、2月は第二コリント書(執筆者:廣石望)、同3、4月はヘブライ書(執筆者:中野実)の見本原稿が公開される予定だ。
VTJ(旧約聖書注解)は、月本昭男(立教大学)、山我哲雄(北星学園大学)、大島力(青山学院大学)、小友聡(東京神学大学)が監修し、NTJ(新約聖書注解)は、須藤伊知郎(西南学院大学)、伊東寿泰(立命館大学)、浅野淳博(関西学院大学)、廣石望(フェリス女学院大学)、辻学(広島大学)、中野実(東京神学大学)が監修する。
これまで日本に置ける聖書注解は主に欧米の聖書注解の翻訳に頼る部分が大きかったが、日本初とも言うべきこの試みに、「今回の注解書シリーズの企画は、日本の聖書学においてエポックメーキングな出来事」(小友聡)、「私たちは新約聖書の原典を、日本語を駆使しながら読み解くことで福音の起爆力を解き放ち、この転換の時代を東アジアで生きるための新しい方向定位を探りたいと願っています(廣石望)、「この度の新しい注解書プロジェクトが、信仰共同体にも、さらにはもっと広く社会にも元気を与える役目を果たせたらいいな、と思っています」(中野実)と、各監修者も熱い想いを寄せている。