【CJC=東京】カトリック者が国民の大半を占め、憲法で妊娠中絶が禁じられているアイルランドで、下院が7月12日、母親の生命の危険がある場合に限り、妊娠中絶を認める法案を127対31の賛成多数で可決した。上院でも可決される見通しで、マイケル・D・ヒギンズ大統領の署名により成立する。
法案の中絶容認には、母親が自殺する恐れがある場合も含まれる。ただ中絶が認められるためには精神科医2人と産科医1人が、自殺のリスクが「現実のものであり、重大である」ことを確認しなければならないと定められた。
また近親相姦や強姦によって妊娠した場合にも中絶を認めるべきだとの修正案が女性議員から出されていたが、実現しなかった。
今回の一部合法化はエンダ・ケニー首相ら政府主導で進められたが、法案には強い反対もあり、国論を二分した。与党・統一アイルランド党内でも造反が相次ぎ、審議の過程でルシンダ・クレイトン欧州問題担当閣外相を含む議員5人が法案に反対し、党から除名されている。下院では10日から11日にかけ徹夜審議が行われたという。
アイルランドでは昨年10月、インド出身の妊娠中のサビタ・ハラパナバールさん(31)が妊娠17週目で背中の痛みを訴え21日にゴールウェイ大学付属病院で診察を受け、流産しかかっていると診断された。しかし強い痛みを訴えているにもかかわらず、病院側から人工妊娠中絶手術を拒まれ、3日後に敗血症のため死亡した。
ハラパナバールさんは数時間で流産すると告げられたにもかかわらず、何時間も激痛が続いたことから、中絶手術を訴えた。しかし医師らは、胎児の心臓が動いている限り中絶はできないと説明した。アイルランドはカトリック国であり、医師団もカトリックだと強調したと地元紙は報じている。
ハラパナバールさんは、自分はカトリックではなくヒンドゥー教徒だと訴えたが聞き入れられなかった。
これをきっかけに同国では中絶をめぐる議論が高まり、政府は中絶に対する規制の見直しを迫られていた。