日米の神学者たちが今後100年先の日本のキリスト教会のあり方を見据えつつ、震災後の教会が今なすべき働きについて考える第2回「東日本大震災国際神学シンポジウム」が27日、東京都千代田区のお茶の水クリスチャン・センターで開かれ、教派を超えて教職信徒ら約170人が参加した。フラー神学大学院学長のリチャード・J・マオ(Richard J. Mouw)氏が「『神の忍耐の時』の中で、苦難の救い主に仕える」と題して講演し、東日本大震災をキリスト者としてどのように認識するべきかを論じた。
マオ氏は、東日本大震災のような大きな破壊と苦難の中で、生ける神にどのように仕えるかを論じるにあたって、「まず、その足かせとなっている霊的・神学的懸念について考える必要がある」と述べた。マオ氏は、神に対して時には敵意さえも表現した詩編の箇所を引用し(詩編44・24~25)、「私たちがたびたび経験する苦闘に対して主は無関心だと、主に訴えることさえも許されている」と強調した。その上で、「聖書自体が記しているにもかかわらず、キリスト教共同体がこの御言葉に対してどのように応答するかを示していないことがよくあるのは残念」とし、「真の祈りには不平や絶望さえも含まれるという、より健全な詩編の霊性を用いる機会が奪われてしまう」と指摘した。
マオ氏は、「主が誠実であり、契約を守る神であるとは思えない状況の中でも、神の誠実さをどのように理解すべきなのかと真の苦悩によって神に問う時、私たちは、死にもの狂いで神を愛し、自分の歩みの中で神のご意志を理解したいと願う神の子どもとして神に語りかけている」と述べた。さらに、「そのような中でこそ、神がご自分の被造物に対して示されている愛に満ちた思いやりのしるしを私たちに表してくださるという希望を持つことができる」とした上で、「このようなしるしを待ち望んでいる時でさえ、たとえその目的が謎に包まれているとしても、私たちは、神の主権の目的に信頼する力を祈り求める必要がある」と語った。
また、キリスト論に関して「(勝利の側面を強調しすぎる)西洋思想は非常にバランスを欠いている」と指摘し、日本のキリスト教思想との出会いによって「この敗れた世界の苦悩を分かち合う必要性の理解を大いに育まれた」と語った。マオ氏は、遠藤周作が日本人の宗教心について「神々や仏の中に、『厳格な父』よりも、『暖かな心の母』を求めている」と論じたことを引用し、「遠藤がここで示す『厳格な父』と『暖かな心の母』としての神の対比は、日本人のキリスト者共同体が2011年の災害の経験をどのように語ることができるかを考える時に、優れた出発点となる」と述べた。さらに、「人間の中に受肉された御子を示す時、神の『暖かな心の母』としての特性を強調することは、文化的理由として良いだけではなく、それは堅固な聖書的神学的理解でもある」とし(マタイ23・37、ルカ13・34)、「私たちの身に恐ろしい災害が起こることを、全能の神がなぜ許されたのかと問いたい思いを消し去るものは何もない。しかし、たとえこの問いを尋ねたとしても、私たちと同じ苦しみを味わわれた御子の存在を感じ取るべきだ」と説いた。
マオ氏は、「神が私たちの苦悩の中に入ってこられたということを認識することは慰めの源泉だが、それはまたキリスト者共同体にとっての行動の根拠となる」と語り、キリスト者の特徴的な行為として「共にいる」行為の重要性を強調した。マオ氏は、「特に日本のように、キリスト者が少数者としてサブ・カルチャーを形成している社会文脈の中で、『共にいる』行為を育むことはきわめて重要だ」と述べ、公共の場への参与から身を引くのでも、それを乗っ取るのでもなく、「神がなお愛しておられる敗れた反逆的な被造物と共に、神ご自身の長い苦しみを共有する明確な理解を持って、正義を推し進めるために働くという選択だ」と説いた。
マオ氏は、「私たちが召されている忍耐は、受け身的に待つことではない。それは、これから時が満ちて訪れる王国の到来を積極的に待ち望むことだ」と述べ、キリスト者の任務について「仕えるようにと主が私たちを召された場所で、神の栄光をあらわす誉れある行いを遂行することによって、その場所のシャローム(平安)を求めること」と説いた(エレミヤ29・5~7、Ⅰペトロ2・11~12)。さらに、「このような誉れある行いは、他者の必要に対するキリスト者の共感から生み出される」と強調し、「重要なのは、試練や苦難の中にある彼らの傍らに立ち、彼らの幸福、つまりシャロームを求め、神の栄光をあらわす誉れある行いで彼らを包み込むことによって、苦しみ、問いを抱え、悲しんでいる人々と一体となるという私たちの共感だ」と語った。
マオ氏は、「主が私たちに求めておられる多くのことは、私たちが自然のままに持ち合わせているものではない」と強調し、「私たちの責任は、主が私たちのために与えられた機会を用いて、主の恵みによってのみ私たちに与えられる霊的な性質、つまり、忍耐、憐れみ、共感、そして希望といった性質を伴い、主が私たちを置かれた場所において、その状況の中で主の御心に従うことを求めることによって、主に仕えることだ」と述べた。
続くパネルディスカッションでは、聖学院大学総合研究所教授の藤原淳賀氏が司会を務め、マオ氏のほか、パネリストとして青山学院大学教授の伊藤悟氏、東京基督教大学教授の岡村直樹氏、カトリック東京大司教区補佐司教の幸田和生氏、聖学院大学准教授の藤掛明氏が参加した。午後には分科会が行われ、震災に関する様々な課題について議論を深めた。
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