序
今日の多くの青少年たちが、この恐るべき世俗社会の抑圧の中で幼い頃から早くも心傷つき、その抑圧の累積の結果、遂にその苦悩が頂点に達してさまざまな異常心理・異常行動を呈しています。それらの症状は、極めて千差万別で多様です。
しかし、元を正せばそれらは皆、同根の原因から派生しています。即ち、それらの異常心理・異常行動の究極の原因は、世俗的価値観によって造成された枠組みの強要と、その子供たちの内に生まれながらに付与されていた純粋にして鋭敏かつ卓越した天与の感性との間に生じる大きな落差から来る極度のストレスにあります。
そして、そのストレスに更にある種の強烈な精神的若しくは肉体的衝撃が加わった時、そこに決定的なトラウマが生じ、それが彼らの内に顕著な精神的破綻を惹き起こします。その結果、彼らは悲しいかな、本来麗しくあるはずの人間性がすっかり損なわれ、他者との間でまろやかな人間関係を結べなくなり、のみならず、通常人には到底理解できない異常心理・異常行動を呈するようになるわけです。
こうした状態の人々を称して、一般的に「人格障害」とか「人格破綻」等と呼びますが、わたしはこれほど彼らにとって不名誉な、残酷かつ不適切な呼称はないと考えています。のみならず、彼らがこれらの極度の抑圧と苦悩の果て、遂には両親をはじめとし、周囲の多くの人々に多大な苦悩・悲嘆・損失・危害等を及ぼすようになることから、彼らをまさに「加害者」として位置づけてしまいがちですが、しかし事実は全くその逆で、彼らこそが最大の「被害者」であるのです。なぜなら、彼らはその長い間に亘って被ってきた名状し難い精神的苦悩と人格的損傷の果てに、他者にはまさに加害者として受け止められざるを得ないような異常心理・異常行動を引き起こしてしまっているからです。
ちなみに、今日世間で親を悩まし、また周囲の人々に問題視されている不登校、いじめ、いじめられ、引き籠もり、家庭内暴力、非行、摂食障害、リストカット、アルコール中毒、薬物依存、ギャンブル、サラ金地獄、性的倒錯、猟奇犯罪等々は、ほとんどと言ってよいほど、生まれながらにして純粋かつ鋭敏な卓越した天与の感性の持ち主である子供たちが、極く幼い内から世俗的価値観とその枠組みを強要されることにより、その落差から来る極度のストレスの累積と更なる後天的トラウマに遭遇した結果、遂に顕著な精神的破綻を招来し、このような諸症状を呈するに至ったものと言って過言ではありません。筆者はこのような諸症状を総称して「対人関係不全症候群」と呼んでいます。また、かかる生まれながらにして純粋かつ鋭敏な卓越した感性を付与されている子供たちを、総称して「ウルトラ良い子」と呼んでいます。
そこで以下本稿において筆者は、これらの心病む「ウルトラ良い子たち」を、如何にしたらこの「対人関係不全症候群」から癒やし得るのか、その癒やしの道について詳細記してみることにしました。それがこの種の極度の悩みを持つ人々―主として子供たち―と、その両親や家族、更にはケアーにあたる人々にとって、少しでも役立つことが出来たなら幸いです。
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。