原発事故直後、祈りの中に現れたイエス・キリスト
被災地の福島県いわき市にある勿来キリスト福音教会牧師の住吉英治氏は、原発事故後に東京へ向かい一斉に人々が避難する中、現地に残り支援活動に当たった経緯について、「いつ避難しようかと神様に祈っていた時、原発に向かわれるイエス様のお姿がはっきりと見えた。そしてイエス様は『わたしは原発事故の所に行って収束するように祈る。私にとって被ばくなど問題ではない。そしてそこに取り残された弱い人たちを慰め、励まし、共に生きる。それなのにあなたは私を残して逃げようとするのか』という声があった。そのとき被ばくすることも止む無しと思ったが、その声が聞えたことは非常に大きな畏れでもあった」と証しした。
住吉氏はその後の現地での支援活動の状況について報告し、物資は次々と運び込まれるものの、「愛する家族が離散し、津波で家族を救いきれずに生き残った人の話が山ほどあり悲しみが本当に癒されていない状態である。本当の立ち直りは、思い切って泣いて悲しみを表すところから始まるのだが、まだまだそこまでいっていない」と伝えた。
また原発事故周辺地域のゴーストタウン化について、「若い人が県外に流出している。これらの人たちは2度と福島には帰らないだろうと思う。家畜・ペットの災難も深刻である。人間が犯した大惨事で動物や自然が本当に痛めつけられた。私は人間がこのようなことをして良い権利はないと思っている。動物を悲しませたり、家畜を見殺しにしたりするような、人間の過失で動物やペットが悲しんでいると言うのが本当に悲しいことである。このようなときにペットをどうするかということも大事な問題。ペットがいるから逃げられなかった、避難所に行けなかったという人もたくさんいる」と伝えた。故郷を離れざるを得ないような状況の中で、クリスチャンは最終的に帰るところは天であるという確信があることは非常に励みになると証し、「このような状況にある人たちに宗教が、キリスト教が本当に『生きる希望』を与えられているかが真剣に問われている」と伝えた。
住吉氏は今回の原発事故について、「原発を誘致した責任の所在問題がある。誘致した人も反対した人も、お金をもらった人ももらわなかった人も逃げざるを得ない状況である。責任問題というのが一つの大きな課題である。政治家もだれも責任を取らなくなった時代であるが、教会も同じ要素があると思う。福島の教会は原発にどう対応してきたのか。地元へのキリスト教会としての責任はどうなのか、世界としてどう対応していこうとしているのかをしっかり模索しなければならない。教会が真に地域の人たちに希望を与え、共に生きる使命を果たすことができるのか。私たちは原発を教会としてどうとらえるか、責任の所在をはっきりとしなければいけないのではないかと思う」と述べた。
横浜海岸教会牧師の上山修平氏は、原発稼働問題に関して教会で様々な意見がある中で、慎重論に関する代表的な意見を挙げ、それに対する自身の見解を述べた。上山氏はまず「脱原発」と「反原発」は意味が異なり、「原発を直ぐに止めろ、反対というのではなく、(現実的に)すぐに止めるということはできないわけですから『脱原発』ということで考えている」と述べた。上山氏の属する日本キリスト教会大会常置委員会が今年2月7日に出した「原子力発電についての私たちの見解」においても、「今すぐ止めなければならないという口調のものではないが、『できるだけ早く止めてほしい』ということをしっかりと言っている立場をとっている」という。
原発問題という社会問題に教会がそう簡単に関わるべきではないとする意見について、上山氏は「信仰的に見てこの問題は社会問題ではない。信仰的に見ても、電力を生み出すために核分裂を利用することは許されない。その結果の一端が今回の事故やチェルノブイリの事故に現れたと思っている。社会運動の一つとは違う視点で私は考えている」と述べた。
原発問題を教会で扱う際の慎重論として、まず「教会には原発や電力会社で働いている人もいる。その人たちの思いを考えたのか」という意見について、上山氏は「福島原発事故で高濃度の汚染を受けた人たち、家に帰宅することが困難になっている人たちを目の前にしてその言葉を語ることができるのか。いろいろな視点からものを言うことができ、それなりに問いかけとしては皆成立する。しかしキリスト者は今回の原発事故の問題について、どのような視点からとらえ、何を問題とするかが問われていると思う」と述べた。
中立であるということは、抑圧者を助けることにつながる
慎重論の中で「このような社会的・科学的問題に日本キリスト教会は今まで発言したことがなかったのに、なぜ唐突にこのようなものを出したのか?もっと議論した後でも良かったのではないか」という意見に対しては、上山氏はユダヤ人のホロコーストと教会の対応を例に挙げ、「中立であるということは、抑圧者を助けるだけで被害者を助けることにはならない。原発の是非について物を言わないというのは、中立の立場をとっているのではなく、原発についてこれまでどおり続けたいという人たちにとってはありがたい立場をとっていることになってしまう。そのことについて考えるべきではないか」と述べた。
ユダヤ人のホロコーストの歴史においては、ヒトラー政権下でドイツ教会組織指導部が、ユダヤ人に生じている迫害について様々なことに気を配る中で、結局ユダヤ人を見捨てて気付いたときには何もできなくなっており、教会の指導的な神学者たちが口をつぐんでいた中、婦人会の人たちが声をあげて活動に乗り出していたことが説明され、「過去の歴史から学ぶべき。原子力発電を用いて電力を用いるべきであるかについて教会が何も言わないなら、それを続けて良いということに加担していることになる。この問題に対してゆっくり時間をかけていてはいけない」と警告した。
一方で宗教界からは昨年の4月から昨年末の段階でさまざまな原発問題に対する声明が出ており、「あるグループは非常に過激に今すぐ原発稼働を停止せよと言っている。これまで出ている声明と同じものを出すのではなく、原子力発電のために核を利用することに対して、日本キリスト教会がどう考えているのかを今すぐ出すことが重要であると考えている。今回の事故をどのようにとらえるかが日本の教会に問われていると思う」と述べた。
また原発問題で教会として取り上げなければならない問題として「世代間倫理の問題」を指摘し、「次に原発事故が起これば誰が責任を取るのかということを思う。その上でキリスト教会は、原発の問題以降、倫理的な所で考えなければならないことは、次世代の人を考えたところの倫理の問題をどうしっかりと受け止めていくかというのが切実な問題である」と述べた。
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