昨年3月11日に生じた東日本大震災以降、エネルギー問題に対する国民的関心が高まるようになった。国内キリスト教界でも原発の全廃に向けた提言やメッセージがなされているが、日本政府としても同様な動きがなされるべく日本弁護士連合会が意見書を取りまとめ、日本政府としての「革新的エネルギー・環境戦略」の決定を促している。
日本弁護士連合会は昨年5月6日に「エネルギー政策の根本的な転換に向けた意見書」をとりまとめ、同年5月7日付けで内閣総理大臣、環境大臣および経済産業大臣に提出していた。同連合会では、エネルギー政策の抜本的な転換に向け、1.持続可能性を基本原則とするエネルギー政策にすること、2.原子力発電所については、新増設を停止し、既設のものは段階的に廃止すること。また、運転開始後30年を経過し老朽化したものや付近で巨大地震が発生することが予見されているものについては運転を停止し、それ以外のものについても、地震・津波に対する対策を直ちに点検し、安全性が確認できないものについては運転を停止すること、3.石炭火力発電についても、新増設を停止すること、4.再生可能エネルギーの推進を政策の中核に据えること、5.エネルギー製造・供給事業の自由化を促進し、発電と送電を分離すること、6.エネルギー消費を抑制するための実効的な制度を導入すること、7.排出量取引制度等によってエネルギー供給の確実な低炭素化を図っていくこと、8.エネルギー政策が多くの国民に開かれ、国民の積極的な参加を促すものとすることを要求していた。
その後昨年6月7日には新成長戦略実現会議の分科会としてエネルギー・環境会議が設置され、同7月29日に開かれたエネルギー・環境会議において原発への依存度低減のシナリオと分散型エネルギーシステムへの転換という大きな方向性が決定された。昨年12月21日に開催された第5回エネルギー・環境会議においては、今年春のエネルギー・環境戦略に関する戦略の選択肢提示に向けた基本方針が決定され、今年春に行われるエネルギー・環境会議では、エネルギー・環境戦略に関する戦略の選択肢が提示され、それをもって国民的議論が進められ、その後今年夏に行われるエネルギー・環境会議で「革新的エネルギー・環境戦略」の決定がなされる予定であるという。
「エネルギー基本計画」の見直しの論点について、富士通総研主任研究員で元内閣官房国家戦略室員・内閣審議官の梶山恵司氏からドイツのエネルギー戦略と比較した日本のエネルギー戦略の在り方について、続いて「再生可能エネルギー拡大と電力自由化の重要性」についてNPO法人環境エネルギー政策研究所主任研究員の山下紀明氏より講演が行われた。
~生活の質はそのままでエネルギーの効率的利用は可能~
菅前内閣の下でエネルギー政策の転換に取り組んできた梶山氏は、1990年から2010年にかけた経済成長とエネルギー消費の関係性についての日独比較を紹介し、ドイツが経済成長とエネルギー消費の削減を両立させてきた一方、日本は経済成長に伴い、エネルギー消費も拡大してきたことを伝えた。
これからのエネルギー資源を取り巻く環境について、今後エネルギー需給はひっ迫し、価格は高騰していくであろうこと、地球環境問題も深刻化していくことを前提として、エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの拡大を行うエネルギー戦略を政府として行って行く必要があると述べた。
また原子力発電は、今後どのように考えても縮小されるべきであり、それに対して国際競争力を維持するためにもエネルギー戦略に対して国家として真面目に対応していかなければならず、エネルギーシステムの再構築こそ、最大のビジネス成長分野でもあると述べた。
同氏は、エネルギー効率を向上させるために、必要な電力使用を我慢する節電をするのではなく、エネルギー消費を削減することで生活の質の向上につながる自然な形のエネルギー消費の削減が、やるべきことをきちんとやれば実現可能であり、実際に欧州ではそのようなエネルギー政策が実行出来ていることを伝えた。さらに「二酸化炭素の削減が経済成長とトレードオフになるという考え方は『20世紀の考え方』で、全く古い考え方である」とし、「21世紀はその逆で持続可能な社会、豊かな生活とエネルギー消費の削減は両立すると考えられる」と述べた。
梶山氏は具体的なエネルギー効率化について、石油・石炭・天然ガス・原子力・再生可能エネルギーなどの一次エネルギー供給を、電力・熱・輸送燃料などの二次エネルギーに転換し、それを産業・家庭・業務・運輸と部門別にエネルギーを消費していく過程において、一次エネルギーを電力に転換する際に生じるエネルギー損失を最小限に抑え、またそれぞれの部門で利用するエネルギーを節約していく効率化が必要であると述べた。一次エネルギーを電力に転換する際、火力発電の場合は6割のエネルギーが排熱となる。原子力発電の場合の発電効率は30パーセントでしかないという。
梶山氏によると、欧州では既に電力の効率化を行ってきているという。ドイツではエネルギー転換の損失の削減政策について2030年には1990年比で60パーセント削減するという目標を定めており、既に2009年には15パーセント減を達成しているという。一方で同氏は、これまで日本のエネルギー基本計画は、エネルギー転換の損失の削減政策について全体像を把握した上で、必ずしも対応してきたわけではなかったことを指摘した。日本のエネルギー転換の損失の削減動向は1990年比で2009年では11パーセント増えており、2030年にどのようになるかの目標は特に定められてこなかったという。
梶山氏は発電の効率化の可能性について発電効率が30パーセントしかない原子力発電から再生可能エネルギーへ、石炭からガスへとエネルギーシフトを行うと同時にコージェネ(熱電併給)を行っていく必要があると述べた。ドイツでは風力や太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーの発電の割合を2030年には66パーセントに引き上げる一方、原子力発電は2030年には全廃する目標を定めているという。
梶山氏は日本のエネルギー消費削減について、世界最高水準といわれる省エネ技術を有している一方、現場にはあまり普及しておらず、産業部門では90年代以降、エネルギー消費の原単位での改善はないことを指摘した。国内の省エネについては工場、事業所間の格差が大きく、たとえば東北の人口8万人規模の都市の下水処理のための年間重油代は7千万円かかっているが、最新式の設備を導入すれば4分の1から10分の1に削減可能であり、現場に省エネ技術を普及させることで削減可能余地が残っていると指摘した。
また日本の再生可能エネルギーの持つポテンシャルについて、北海道、東北の風況が優れていること、太陽光発電、太陽熱利用、地熱、地中熱などの利用余地があることを指摘した。
梶山氏はこれからの日本のエネルギー政策について、発電における膨大な熱の損失、建物の断熱改修による熱需要の削減と再生可能エネルギー利用、コージェネの組み合わせ、再生可能エネルギーとコージェネ普及に不可欠の電力買取り制度の導入、その不可欠の前提としての発送電分離・電力市場改革を行っていくことで、エネルギー・システムが再構築され、経済社会システム変革の原動力となると提言した。
また再生可能エネルギーを買い取る際にも、しっかりと効率的なエネルギー生産ができているかを管理し、規制するクオリティの高い政策によって、コージェネ、再生可能エネルギーを地域のエネルギー供給に適用し、地域の街づくり、街の再開発にもつなげていくようにしていくことが必要であると述べた。またドイツはエネルギー産業連盟が電力会社だけでなく、下水・水道まで含め、エネルギー総体としていかに効率化を図るかを考えているのに比べ、日本の場合はあくまで電気事業連合会が電力エネルギーに限った効率化を図っているという違いが見られることを指摘し、「電力だけで絞って考えるのではなく、エネルギー総体としての効率化を図っていかなければならない」と述べた。
エネルギー総体としての効率化を考える時、熱も含めてきちんと総合的に考える必要があり、再生可能エネルギーも熱と電力の両方の視点が必要であることを指摘した。また再生可能エネルギーにも種類がたくさんあるので、それぞれの特性に合わせて、電力として使用するのか、熱として使用するのかをきちんと見極めるきであり、各再生エネルギーごとにきめ細かく対応できる必要があると指摘し、それぞれの地域社会にエネルギー利用に関する専門家が存在する必要があると述べた。
同氏によると、今後さまざまなところでエネルギー効率を改善させる余地があることから、基準・制度・政策のクオリティを上げることで、エネルギー効率をアップさせていくことがビジネスチャンスにもつながっていく期待もあるという。
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