第5回日本伝道会議「札幌宣言」2009年9月24日
危機の時代における宣教協力 〜 もっと広く、もっと深く 〜
―宣教150年を迎える新しい日本と教会を拓くために―
前文
福音信仰に生きる私たちは今、主への感謝をもって過去4回の日本伝道会議を振り返ります。1974年、日本福音同盟(JEA)は、宣教協力の志をもって京都で第1回日本伝道会議を開催し、聖書信仰を基盤に「日本をキリストへ」と祈りを合わせました。1982年、再び京都に会して福音の文化脈化を検討し、「終末と宣教」をテーマに、教会主体の宣教協力の具体化を計画しました。1991年には、地方からの視点を重視して那須塩原に集い、「日本からアジア、そして世界へ」と、公同の教会における私たちの使命を確認しました。そして2000年、JEAの枠を超えて沖縄に集まった第4回日本伝道会議は、沖縄の痛みを心に刻み、21世紀を展望し、「和解の福音」を掲げてグローバル化する時代に歩み出しました。
ところが2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以降の世界は、和解ではなく敵対の様相を呈し、宣教の使命は十分達成されていません。私たちは、第5回日本伝道会議を開催するこの時を「危機の時代」と捉えました。危機とは、地球温暖化、対テロ戦争、価値観の多様化と新たな愛国心教育、金融危機、教会における少子高齢化と伝道の停滞、等々です。日本開国による最初の宣教師来日から150年。日本の近代化の陰に追いやられたアイヌ民族の地において、新しい日本と教会の明日を拓くべく、「危機の時代の宣教協力―もっと広く、もっと深く―」をテーマに協議した私たちは、この会議の決意を以下のように宣言します。
第1章 日本プロテスタント宣教150年
神の民がその歴史を振り返るとき、そこにあるのは悔い改めと感謝です。主の2009年、日本におけるプロテスタント宣教は、宣教師の長崎・神奈川上陸から数えて150年、ベッテルハイムの琉球伝道から数えれば163年目を迎えます。250年の潜伏の後、教会に復帰したカトリック信徒の信仰の戦い、日本宣教のために惜しみなく仕えた宣教師、イエス・キリストの恵みによって救われたすべての信徒、今日61万6千人となったプロテスタントの信徒と8千を超える教会、先達たちが為してきた伝道と奉仕のゆえに、主に感謝し賛美をささげます。
その一方、日本の教会は天皇制国体に埋没し、自律的な教会を形成し得なかった結果、偶像化した国家を神と並べる罪を犯し、戦争による災厄(さいやく)をアジアの人々にもたらすこともしてしまいました。その罪は主の前に大きく、教会はさばかれてしかるべきでした。しかし、戦後も存続を許され、新規の伝道をすることができたのは主のあわれみです。それゆえに、私たちは悔い改め、主にのみ礼拝をささげる教会として伝道と奉仕に励みます。
アイヌ民族を先住民族と認めた歴史的な国会決議(2008年6月6日)後の北海道で開催された日本伝道会議は、この視点からの歴史認識と悔い改めに私たちを導きます。すなわち大和民族は、アイヌ民族の地や琉球をその版図(はんと)に加え、天皇の民へと同化しました。その延長線上に台湾や朝鮮の植民地化があったと言えます。今後は、アイヌ民族が誇りと尊厳をもって歩むことができる共生社会を目指し、近代日本の歴史の反省に立って、アジアと世界の人々と共に歩みます。
第2章 危機の時代における私たちの使命
第1節 危機の時代
2000年の沖縄宣言の後、社会情勢は大きく変化し、現代は「危機の時代」と呼ばれています。現実に、世界、日本、教会の三つのレベルで、危機は進行しつつあります。
世界では、2001年の9・11事件から各地で報復と憎悪の連鎖が続いています。また食糧危機や、2008年の金融危機などによって、貧富の格差が拡大し、環境問題も深刻化しています。さまざまな危機は、グローバル化によって全世界に広がり、日本もまたその中に呑み込まれようとしています。
日本では、家庭における虐待、学校におけるいじめ、雇用問題の悪化、薬物の乱用、衝動的な無差別殺人など、社会のひずみが深刻化しています。さらに「国歌・国旗」の強制や平和憲法改定への動きなど、右傾化が強まりつつあります。
このような中で、日本宣教は厳しい状況にあり、教会員の高齢化や、青少年層の減少が進んでいます。困難の中で職を退く牧師もあり、教会の無牧化や閉鎖などの事態が生じています。また教会のカルト化、各種のハラスメントなど状況は深刻です。
第2節 私たちの希望
このような危機に私たちは立ち向かいます。沖縄宣言では、罪ある人間が救いを得る唯一の道である「和解の福音」を共に生きることが表明されまいた。主は世界を創造し、歴史を支配し、すでに和解のみわざを成し遂げ、今その動きを、聖霊によって力強く進めておられます。和解の主を信じ、告白し続けることが私たちの力です。
主は、和解のみわざを完成するために、再び天から来られます。沖縄宣言は、「アーメン。主イエスよ、来てください。」(黙示22:20)と結ばれています。今日の危機の時代を克服するために、私たちは今、新たな思いで、キリストの再臨による歴史の完成、新天新地の実現への期待を強く表明します。
この信仰と希望のゆえに、私たちは困難な現実に直面しても、決して失望することはありません。私たちは、主が再び来られ、すべてを完成してくださることを確信し、力強く前進していきます。
第3節 私たちの使命
福音こそが、人を変え、世界を変えていく力です。私たちは福音のことばに聴き従い、希望を抱いて福音宣教に励みます。
また、今ここで、神の国が教会を通して実現していくことを祈り求め、地の塩、世の光としての社会的責任を果たします。人間関係の崩壊現象を食い止めるため、私たちは、和解の民として、平安と慰めをもたらすように努めます。国家が神の御旨に背くことがないよう見張り人として警告し、平和の実現のために努力します。また、世界的な規模で拡大している貧富の格差、暴力の連鎖、環境汚染に対し、平和の主によって解決がもたらされるよう力を尽くします。
このような使命を確信し、私たちは、家庭、教会、地域社会、日本、世界において、力強く宣教協力を進めていきます。
第3章 宣教協力の実現
第1節 家庭において
危機にあると言われる現代、日本の家庭は大きな課題に直面しています。夫婦・家庭の性のモラルも社会の影響を大きく受けて激しく揺れ動き、DVや虐待などの暴力は家庭を痛みの場にしています。私たちの宣教は家族関係が回復され、健やかに成長することを目指します。
また、現代社会は子どもたちが健全に成長する環境とは言えません。子どもの成長期の只中に競争社会の圧迫は入り込み、友達同士のいじめの問題は、なおも大きな社会問題です。さらにインターネットや携帯電話が起こす弊害も深刻なものになっており、子どもたちの直面する問題は広範囲になりつつあります。大人は子どもと向き合うことに困惑を覚えています。私たちは子どもたちへの宣教をもう一度見直し、その宣教が家庭や教育の場と協力し合って子どもの成長を支援するものであることを願い、そのために必要な学びを深め、協力体制を整えます。
第2節 教会において
社会が複雑化する中、教職者の守備範囲ではカバーしきれない伝道や教育、福祉などの多方面で、私たち教会は女性や青年を含む訓練された信徒を大胆に用いつつ社会に浸透し、共に福音を証しし教会を建て上げます。
私たちは、教会で女性が果たす役割の大きさを知りつつも、その悩みや弱さへの認識の甘さがありました。教会と牧師を背後で支える牧師婦人の過重負担、多くの奉仕を担ってきた女性の世代交代という課題も抱えています。女性が賜物を喜び活かして宣教に携わることができるよう、環境を整えます。
教会から青年がいなくなったとの声を聞きます。私たちは、倫理価値観の多様化する社会で悩み疲れた青年たちと対話し、意識や文化を共有する姿勢に欠けていたことを悔い改めます。次世代の担い手を危機の時代にこそ救いに導き、力強いキリスト者として育成するため、教会のきよさを保ちつつ間口を広げ、共に歩むための知恵と努力を惜しみません。
第3節 地域社会において
私たちは、地域的宣教協力の分野において、より具体的な方策を計画し、実施します。「地域社会こそ、第一の伝道の場である」との第4回日本伝道会議宣言文での認識を深め、私たちは文化や風習、歴史や経済を共有する各地域の中で、福音を証しするために、あらゆる面で主の導きを仰ぎつつ、有効な協力体制を組んで伝道の危機を乗り越えます。地域格差の広がる今日、あらためて地方伝道の困難さを認識し打開に向けて取り組みます。
このことは取りも直さず、主にある諸教団・諸団体の相互の理解と協力によって、地域の枠組みの中での教会間協力を推進させる必要を意味します。摂理によって同じ畑に蒔かれた福音の種が、結実に向けて成長するため共に祈り合い、必要に応じて協力を惜しまないことが、収穫の主の御心であると確信します。私たちは再び来られるキリストへの希望を強く抱き、相互の多様性を尊重しつつ、真の協力を実現するよう励みます。
第4節 日本において
私たちは、主にあって日本を直視し、日本に生きる者として人々と共に生き、和解の福音を深く味わいつつ証言し、平和をつくる神の民として、人々の全人的な必要に仕えます。
私たちは日本において、人々の心に触れる宣教を志します。日本の精神的土壌や霊性を理解し、人々の文化や生活を重んじつつ、人々の心に福音を伝え、福音によって変革された者たちによる新しい文化の創造を目指します。私たちひとりひとりが福音の担い手であることを絶えず自覚するとともに、福音の働き人を養成する神学校教育の充実にも力を尽くします。
私たちは、日本において平和をつくる者として生きます。近代日本の国家と教会の歴史と戦争責任を心に刻み、今の時代を鋭く考察しつつ、和解の福音の延長線上にある「日本国憲法」の平和主義と基本的人権尊重の理念を生かすため、積極的に発言し、行動します。世界で唯一の被爆国に生きる者として、すべての国の核兵器廃絶を呼びかけます。「教育基本法」改定に見られる新たな愛国心教育の動きを警戒し、「信教の自由」の理念の一層の確立に努めます。
私たちは、日本の中で弱い立場に置かれ、援助を必要としている人々と共に生きます。特に、心病む人々と向き合い、ネットワークを密にして、全人的な愛の援助を目指します。
第5節 世界において
地球環境に人類が与えた傷は、すでに修復不可能と思えるほどです。一般に環境問題の原因は、利潤追求、人口増加、そして覇権争いとされます。またその解決は政治の力による科学技術の効果的な活用に求められます。しかし、環境問題の真の原因は人のむさぼりの罪です。私たちは解決のため、世界管理者にふさわしい人類の自覚的取り組みを普及させる多彩な実践活動を提案し推進します。
私たちは、世界中に住む邦人への宣教の使命を確認します。世界に在留・滞在・渡航するディアスポラと呼ばれる邦人への宣教は、海外では日本語教会や諸団体が担い、国内では帰国者フォローアップの働きが携わります。国際結婚、在留外国人の増加などに対応しつつ、アジアや世界の他民族のディアスポラ宣教と連携を取りつつ、相互ネットワークを拡大・強化します。
危機の時代に私たちは、過去の過ちを悔い改め、繁栄と覇権を巡る暴力の罪の支配を断固許さず、世界の教会と協力し、神なき世界のために死んでよみがえられた救い主イエス・キリストを全世界に宣べ伝えます。
結文
キリスト教に対する邪宗観がはびこる150年前、主への祈りをもって始められたプロテスタント宣教は、今、61万6千人の信徒を得て、8千を超える教会を拠点に新たな歩みを始めます。主にあって、感謝と悔い改め、献身を共にした私たちは、この危機の時代にこそ神の御力に頼り、もっと広く、もっと深く、新しい日本と教会を拓くために宣教協力を進めます。私たちは主の日を待ち望みつつ、2016年の第6回日本伝道会議に向けて、それぞれの分野で具体的な取り組みを進めます。
祈り
歴史の支配者なる主よ。あなたを知らなかった私たちの国が、多くの信仰者と共に今年プロテスタント宣教150年を迎えたのは、あなたの一方的な恵みとあわれみのゆえです。
世界は今、未曾有の危機に覆われています。キリストとその福音に従わず、欲望に支配された結果、現在のような状況をこの地上に招いてしまった、私たちの罪をお赦しください。
主よ、悔い改めつつ歩む私たちを聖霊で満たし、平和の使者としてお遣わしください。危機の時代にあっても希望を失わず、神の国の福音と祝福をこの地に広めることができるよう、私たちをお助けください。
この世が抱える諸問題を主にあって解決するための、愛と勇気と行動力をお与えください。時代の見張り人たる預言者、世をとりなす祭司として、知恵と力に満たしてください。
主よ、あなたが再び来られる日まで、私たちがこの地にあって誠実を尽くし、地を治め、宣教に励むための、聖霊による一致と協力をお与えください。「主よ、来てください」(Iコリント16:22)。主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。