多くの著者たちはただ偉大な本を書き上げれば成功すると思い込んでいるのですが、それは間違った認識です。ある書籍出版に熱意のある女性の執筆家から電子メールを受け取ったことがあるのですが、そこに私が毎週聞く書籍出版希望者の問題の典型となるような質問が書かれていました。
その質問は、「二つの信頼ある機関に所属される方々から私の書いた本の内容がとても好きだとお褒めの言葉をいただきました。彼らは私の本の推薦の言葉を是非書きたいとおっしゃってくださっています。しかし私は今までソーシャルメディアで数千人のフォロワーを得たことがありませんでした。そこで今私は当惑しています。良書というものは、それ自体が存在するだけで良いものなのではないでしょうか?著者は書籍を出版後、一日の時間を多くのブログ愛読者やフォロワーのコメントへの返信のために時間を費やさなければならない運命にあるのでしょうか?」というものでした。
これに対する私の答えは、「書籍出版後もいかに良書であろうと、その本自体が存在するだけでは不十分である」ということです。これは出版業界では基本的なことです。
ですから私はしばしば「良い書籍を書き上げることは書籍出版で成功するための半分の仕事を成し遂げたにすぎない。後半分はどのようにその書籍を販促していくかだ」と著者たちに忠告しています。その理由は以下に挙げるとおりです。
1.未だかつてない書籍の競合状態の下に置かれている。グーグルによりますと、近代史において1億3千万冊以上の書籍が出版されてきたといわれています。現代社会にあって書籍は私達の周囲に溢れかえっています。
書籍にISBN番号を振り分けるサービスを行うバウカーによりますと、米国だけでも2009年の1年間に新たに出版された書籍は100万冊を超えるといいます。既存の伝統的な出版社から出版された書籍数は例年並み(2009年では28万8千タイトル)だったのですが、自費出版で出版された書籍数は2008度比で約2倍の76万5千タイトルとなっています。
2.人々の関心が未だかつてないほど多岐にわたり分散している。ただたくさんの書籍が利用できるようになっただけではなく、現代社会においては多種多様なメディアを利用することもできる環境にあります。多くの映画や、テレビ番組、ラジオ放送、ポッドキャスト番組、衛星通信ネットワークなどに囲まれています。
インターネット上では多くのニュースやブログ、フェイスブックやツイッターからの情報も容易に得ることができます。また人々を没頭させる多くのオンライン・ゲームも生み出されています。
言い換えれば、人々の注目というのは「限られた資源」であるといえるでしょう。著者たちは自身の執筆する分野の他の書籍との競合に直面するだけではなく、同様の読者の注目を引こうとするあらゆるメディアとの競合状態にも置かされているのです。
3.出版業界はこう着状態にあり、古いモデルを基盤としている。 私自身の関わる業界について、この様なことを認めるのは残念なことですが、しかし未だに出版各社はそれぞれの新刊書籍に対する新たな読者を獲得することに焦点を当てる一方で、著者たちが耐え得るプラットフォームを形成していくための手助けを軽視しがちな状況にあります。
私はひとりの著者でもある立場として言えるのは、出版各社は急に姿勢を変えて著者がプラットフォームを形成していくための手助けに集中しようとはしないでしょう。プラットフォームの形成については著者それぞれが責任を持って行っていかなければなりません。もし出版社からプラットフォーム形成の手助けをしてもられるのであれば、幸いなことだと思います。しかし一方で、あなたのプラットフォームについて自身で再検討してみなければなりません。著者本人以上に自身のプラットフォームについて気をかけることのできる人はおりません。そのためあなたのプラットフォームを注意深く形成して自身で育成していくべきです。正しく行えば、著者にとって今後数年間の収入を形成する財産となって返ってくるでしょう。
プラットフォームの形成は、あなたが必要とする以前に行っているべきです。一度書籍を出版する提案を受けてから、あるいは既に出版してから行うのでは遅すぎます。後から行えば行うほど、大変になり、事前にプラットフォームを形成していく方が容易いです。
(本コラムは米クリスチャンポストから翻訳しています)
トーマス・ネルソン 会長(前CEO) マイケル・ハイアット氏
トーマス・ネルソンは世界最大のキリスト教書籍出版会社である。米国内では書籍出版貿易で第7位となっている。同氏のブログ(http://michaelhyatt.com)では、指導者として必要な福音的思考法やウェブサイトによる効果的なビジネス法、出版業界に関するトレンドなどを紹介している。