米著名福音伝道者のフランクリン・グラハム牧師は、北朝鮮の深刻な食糧不足と政治的理由から食糧支援を行わない政府の政策に懸念を示している。FOXニュースチャンネルの「オン・ザ・レコード」にてグラハム氏は北朝鮮が深刻な食糧危機に陥っており、米政府が適切な支援を行う必要があると訴えた。
番組司会者のグレタ・ヴァン・サスタレン氏に対し、グラハム氏は「人口2400万人のうち600万人が食糧不足に陥っています。もしこのまま何も国際社会が支援しなければ、すぐに数十万人の北朝鮮の国民が餓死していく状況に直面するでしょう」と述べた。
米政府はサマリタン・パース含む非政府組織(NGO)に北朝鮮国内の食糧事情の調査を依頼している。2月の現地調査によると、厳しい冬の寒さや大雨・不作の影響で慢性的な食糧不足に陥っていることが判明したという。もしこのままの状態が続けば、北朝鮮の一部は6月中旬までに完全な食糧不足に陥るという。国連世界食糧計画(WFP)も調査を行い同様の結論を打ち出している。
グラハム氏は「北朝鮮には食糧が切実に必要な状況にあります。6月までには支援する必要があります。2月に現地調査をしましたが、現在はすでに5月です。しかしまだ北朝鮮食糧支援に対する何の決定もなされていません。もしこのまま米政府が食糧支援を対北朝鮮外交における政治的武器として用いるのなら、悲劇が起こるでしょう。北朝鮮へ政府が食糧支援を行わないという選択には、政治的な意図があります」と懸念を表明した。
韓国政府関係者らはオバマ米大統領に政府として食糧支援を行わないように警告している。AFPの報道によると、韓国政府は、北朝鮮政府に食糧支援を行うことで、来年度の金日成生誕100周年記念式典のために貯蔵されることを懸念しているという。経済制裁を解除することで、北朝鮮軍部に支援した食糧が行き渡り、本当に食糧を必要としている人々の手には行き渡らないことが政府による支援反対者らの中から指摘されている。
しかしジミー・カーター元大統領はこの政策に反対しており、「北朝鮮の国民すべてが経済制裁下に置かれれば、指導者らが最も苦しまず、最も苦しむのは一般大衆となる」と懸念を示している。カーター元大統領は米政府および韓国政府が食糧支援を行わないことで人権を濫用していると非難している。同氏は4月に3日間、元政治家らとともに北朝鮮の現地調査を行ってきて食糧事情の深刻さを目の当たりにしている。
米国務省では「北朝鮮は2009年に支援プログラムを突然中止し、米政府の人道支援担当者を国外追放させ、2万トンもの食糧を置き去りにした国です。北朝鮮国民の貧困の責任が誰にあるのかを覚えるべきです。北朝鮮政府自体に問題があります」と述べ、現状における北朝鮮政府への支援を否定している。
一方グラハム氏は北朝鮮の政治的立場に関わらず、米政府は現実問題として北朝鮮政府に食糧支援を行っていくべきだと信じており、「私はイエスキリストの福音を伝える者として、政治的問題を持ちこみたくはありません。私は聖書はすべての人々に益となることをしなさいと教えていることを信じています。北朝鮮政府の意向を変えさせるための手段として食糧支援をもってくるべきではありません。北朝鮮政府には新たな政権への動きがあり、それを私たちも知っています。今米政府が一歩進んで北朝鮮に食糧支援を行い、次期政権を支援することは大きな意味があるでしょう。対話を進めて、友好関係を築いていくべきです。朝鮮戦争休戦から約60年が経過しています。それでも未だに対立関係が続いています。対話を通して友好関係を促進させる道を見つける必要があります」と述べている。
カーター元米大統領の北朝鮮視察の報告によると、北朝鮮政府には、北朝鮮に対する強硬姿勢を高めている李明博大統領政権との友好関係を築こうとする試みは全く見てとることができなかったという。南北朝鮮関係は、昨年末に韓国戦艦が撃沈し、46人の乗組員が死亡した事件を受け、ほとんどすべての面で国交断絶状態にある。韓国政府は同件に関して北朝鮮からの適切な謝罪を要求している。米政府も北朝鮮が韓国との国交関係を改善するなら、北朝鮮との良好な関係模索を行うという方針をとっている。
グラハム氏は政治的な膠着状態にある現在において、北朝鮮政権ではなく同国の数百万人が餓死に直面しようとしている国民に焦点が当てられるべきであるとし、「北朝鮮の国民には選択権がありません。彼らには何もありません。彼らは何とか生きようとしているだけです。1990年代に私たちは百万人以上の北朝鮮国民が餓死するのを見てきました。現在も90年代の当時と同様に深刻な状況なのです。体重を維持するのに平均1,700キロカロリーが必要です。しかし現状では北朝鮮国民1人につき700キロカロリー未満しか食糧が与えられていない状況にあります。これは何を意味するかと言いますと、このままでは栄養失調による餓死に直面してしまうということです」と述べた。
AFPによると、米国務省のロバート・キング北朝鮮人権特使は、米政府は政治問題に関わらず北朝鮮の必要に応じた対策を行うべきだと主張しているという。
グラハム氏は「北朝鮮の子どもたちが食糧不足により発育阻害に直面しています。雑草を引き抜いてきて、シチューを作って飢えを凌ごうとしています。さらに木の皮までも茹でて食べているような状態です」と食糧支援の必要性を深刻に訴えた。AFPによると一部支援団体が北朝鮮に16万トンから17万5千トンの食糧支援を行おうとしているという。しかしサマリタン・パースのケン・アイザック氏は今から食糧支援を行おうとしても、北朝鮮国民が餓死する前までに国民の手に行き渡るかどうかわからないと懸念を示している。