キリスト教、神道、仏教の指導者が一同に集い、いのちの大切さを考えるシンポジウムが23日、東京YWCA(千代田区神田駿河台1−8)で開催された。
神道から國學院大學学長の阿蘇谷正彦氏、仏教から薬師寺(奈良県奈良市)管主の安田暎胤氏、プロテスタントを代表して日本キリスト教協議会(NCC)議長の鈴木伶子氏、カトリックからはアルフォンス・デーケン名誉教授(上智大学)がパネリストとして参加。各宗教の立場から「いのち」の大切さを伝えた。
コーディネーターは早稲田大の木村利人名誉教授。プロテスタント信徒らを中心に約100人が参加した。財団法人日本クリスチャンアカデミー主催。
主催の上林順一郎運営委員長の挨拶のあと、4人のパネリストが「いのちの大切さと重さ」をテーマに語った。
阿蘇谷氏は、人間は神の「みこと」(命令)をもって神から生まれ、その「みこと」を実現するために生きているとし、人間の「いのち」は神によって与えられた尊いものであることと、その人生には必ず理由(神の意志)があると話した。
鈴木氏は、国際的な紛争の和解、経済格差に向けてのキリスト教徒の積極的な取り組みに触れ、争いを和解に変え貧しい人を富ませるキリストの愛と赦しについて説明した。教会が「いのち」について普段から考える場を信徒に提供していることを紹介した。
デーケン氏は「キリスト教は希望の宗教」だと証しし、「いのち」の尊さは永遠なる存在の神から出たものであり、限られた人生の中で父なる神と隣人を愛すことで、人は本当の幸せと希望に満ちた人生を得られると話した。
安田氏は、数多くの「いのち」ある生物の中で自分が人間として生まれたことは希であり、それだけでも人間は尊い存在だと話した。また自己中心的になりやすい人間が「人のために命を捨てる」心を少しでも持つことに、世の中が改善されるきっかけが見出せるのではと説いた。
講演後の質疑応答の時間には、参加者から活発な質疑があった。「靖国問題」「祈り」などにテーマが移ると、各宗教のそれぞれの視点から意見が交わされた。
神道側から日本の過去の戦争に大義名分があったとの意見が出され、それについて各宗教者が意見する場面があった。
鈴木氏は「戦争は悪。悪は悪だと認めることが次の戦争をストップさせる」と戦争の美化を断固として反対した。また「祈りを知らない人々も『いのちが大切にされるように』『次の世代までこの世界が続くように』という熱心な願いを持っている。」「祈りを知っている私たちが目を覚まして、焦点を合わせなければ」と会衆に訴えた。
最後に安田氏は「われわれ宗教者が語るメッセージの共通点はたくさんある。互いに協力し、またそれぞれ熱心に布教することが必要」と結んだ。
同アカデミーの大津健一事務局長(元NCC総幹事)は「さまざまな宗教者間の交流ができ、彼らが共通して伝える『いのち』に関する大切なメッセージを多くの方と共有できたのでは」と開催の成果を語った。