国立ハンセン病療養所・星塚敬愛園(鹿児島県鹿屋市)は14日、園内に保管されていた胎児標本18体のうち12体を火葬した。当初、同園は、18体全ての胎児標本を火葬する予定だったが、身元確認ができなかった6体については火葬を延期した。
告別式は園内にて非公開で行われ、遺族や関係者など約100人が参列した。全国に13ある国立ハンセン病療養所のうち、葬儀を非公開で行ったのは同園のみ。
同園園長の有川勲氏によると、火葬予定だった全18体の胎児標本のうち12体については、母親の名前などから昨年末までに身元が判明された。しかし残り6体については、DNA鑑定などを試みたが最後まで身元が判明しなかったという。同園は残り6体の身元確認を急ぎ、早急に火葬を実施する予定。
有川氏は本紙の取材に対し、「胎児が供養もされずに放置されている現状を正さなければならない。早く供養してあげたいが、身元を捜すことも重要だ」と話した。同園は1年以上かけて身元確認を行い、今回の火葬に至ったという。
昨年、厚生労働省は、各療養所に対して「06年度中に各施設において丁重に(胎児標本の)火葬、埋葬、供養および慰霊を行う」ように通知していた。これを受け、昨年全国の各療養所では胎児標本の火葬が次々に実施された。敬愛園を除く全療養所ではすでに火葬が終わっており、同園が最後となっていた。
05年1月に、厚生労働省が設置した第三者機関「ハンセン病問題に関する検証会議」が、全国の国立療養所など6カ所に計114体の胎児標本が保管されていることを公表したことで胎児標本問題が明るみに出された。それ以前は、1996年4月に「らい予防法」が廃止され、2001年5月には熊本地裁で隔離政策の誤りを認める判決が出たにも関わらず、子供たちはホルマリン漬けの標本とされ、療養所内の片隅の闇世界に放置され続けてきた。
ハンセン病問題の解決に取り組む市民団体「ハンセン病市民学会」事務局長の遠藤隆久氏(熊本学園大学研究室)は本紙の取材に対し、「国は、なぜ胎児を標本化したのか、またなぜ胎児標本が放置されたままになったのかについて説明責任を果たしていない」と語った。さらに同氏は、「国は胎児標本を放置したことについては謝罪したが、作った理由については未だに謝罪していない」と語り、胎児標本を焼却・埋葬することで国の責任問題が曖昧にされ、歴史的な真相解明の道が閉ざされることを懸念した。
胎児標本の問題については、倫理的な面や宗教的な面における問題も問われている。星塚敬愛園園長の有川氏は「しっかり火葬して供養してあげることが大切であり、倫理的だと思う」と話した。一方ハンセン病市民学会の遠藤氏は、「本来は療養所内で火葬するのではなく、胎児標本にされた子どもたちを肉親・遺族のもとに戻し、親が自分たちの宗教に基づいて個人として火葬し、丁重に供養してほしい」と語った。