尊厳死法制定により生産性を認められない人に死をもたらすことが合法的になるとして、日本キリスト教連合会が強い懸念を示した。
「尊厳死」法制化に向けた動きが活発化するなか、キリスト教信仰と倫理の観点から尊厳死法制定が持つ否定的動機を追及するため、カトリック中央協議会、日本聖公会、プロテスタント所教団(教会)合わせて59の団体が加盟するキリスト教団体「日本キリスト教連合会」(松岡俊一郎理事長)が主催するシンポジウム「尊厳死―キリスト教会は支持しうるか―」が21日、日本福音ルーテル教会宣教百周年記念東京会堂で開催された。尊厳死に関心のある教会関係者を中心におよそ70人が参加した。
主催の日本キリスト教連合会は今年3月、超党派の国会議員で構成される「尊厳死法制化を考える議員連盟」より、「尊厳死について、キリスト教界としての見解を聞きたい」との依頼を受けた。連合会は、「現時点では、この問題に関するキリスト教界としての統一見解はない」とした上で、連合会を代表して聖公会神学院校長の関正勝氏が、4月4日に行われた「尊厳死法制化を考える議員連盟総会」で発題した。
これを機に開かれた今回のシンポジウムでは、基調講演に関正勝氏、シンポジストに武蔵工大教授の多井一雄氏、上智大学神学部講師の竹内修一氏を迎え、キリスト教生命倫理の専門家たちがそれぞれの立場から尊厳死に対する見解を発表した。
基調講演で関正勝氏は、まず「尊厳死法制化を考える議員連盟」(中山太郎会長)が作成した「尊厳死の法制化に関する要綱骨子案」の第5条「医師の行為の免責」に注目し、法案作成には、医師の「違法性阻却」(法的な免責)が背後にあるのではないかとの見解を発表。法制化は、医師と患者の信頼関係を大きく破壊するのではないかと警告した。
また、「そもそも尊厳死とは何か」との問いについては、単に医師が延命装置を停止するだけで尊厳死ともなりかねない、さらには死ぬ権利こそ尊厳死だとされかねないとしながら、「命を奪う権利と義務を社会に与えるのでは」と問題の深刻さを訴えた。
さらに「(尊厳死が)社会の価値観を映し出している」とし、生産性や合理化をどこまでも追求するあまり、「生産性がない」という理由で尊厳ある「いのち」を軽んじてしまう、現代社会の暗闇が法制化に大きな影響を与えているのではないかと指摘した。