地下鉄、松本両サリン、坂本堤弁護士一家殺害など13事件で殺人罪などに問われたオウム真理教(現・アーレフ)教祖、松本智津夫(麻原彰晃)被告(48)に対し、東京地裁は27日午後、求刑通り死刑を言い渡した。新聞各紙によると、一被告の犯罪としては戦後最多の計26人の殺害、1人の逮捕監禁致死を含む全13事件について有罪が認定され、首謀者は教祖の松本被告と認められた。弁護団は閉廷後、ただちに控訴した。
オウム真理教の関与が認められている一連の事件では、計27人が犠牲になり、負傷者は約6000人となった。社会を震撼(しんかん)させた一連の事件の裁判は、起訴された189人全員の1審判決が出そろった。
事件当時から信者脱会に取り組んできたのは京都市下京区のアッセンブリー京都教会(アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団七条キリスト教会)の村上密牧師。牧師は今日の公判について「教団は教義を検証せず、信者は今も松本被告のテープを聞いている。事件はこれで終わったとは思わない」と話す。
村上牧師は、信者や脱会信者、信者家族との相談を10年近く継続している。同牧師は「信者は皆まじめで、答えは一つしかないと考える傾向があった」と話している。ある女子学生信者が両親に連れられてきたときは、村上牧師が教義の矛盾を地道に指摘し続け、約2カ月で脱会を決意させた。「子どもが再び教団に戻るという恐怖がある。親の後遺症は消えない」と村上牧師は語る。
松本被告の死刑判決について、村上牧師は「国家によって葬り去られた殉教者として、神格化される恐れがある」と指摘し、「カルトの指導者が語った言葉がいかに信者を縛り付けるかが証明される」と、信者への影響を懸念している。確かに、一連の事件が、単なるテロや暴力的な行為としてしか裁かれなかったとして、集団の結束力の源であるマインドコントロールの全容解明など課題は多く残されているとする声も多い。
教団を糾弾してきたジャーナリスト江川紹子さん(45)は、27日の判決で松本被告が一連の事件の「首謀者」であることが確認されたものの、残存する信者の問題などが大きく進展するとは思えないとしている。
異教・異端問題について日本基督教団の山北宣久総議長は、「人びとが異端に惹かれるというのは、真実の愛に対する渇きがあるということ。教会が正統信仰をもっとのべ伝えておけば、異端がこれほど跋扈(ばっこ)することもなかった」と指摘、教会が人びとを守るべきだったとし、福音によって人びとを守る必要性を訴えている。