大阪のビジネスの中心街、北浜駅(京阪・地下鉄堺筋線)の正面にあるフロア面積100坪9階建てのビル「VIP関西センター」を拠点とし、ビジネスパーソンを救いに導く伝道団体「インターナショナルVIPクラブ関西」。ビルの屋上には、赤い十字架が燦然と輝き、大型電光掲示板には24時間中聖書のみことばが流れている。丹波篠山の地にはリトリート施設「VIPアルパインローズ・ビレッジ」があり、ラジオ大阪では「VIPアメージングインタビュー」を放送する。教会には行きたがらない、福音には関心がないといった日本の大多数のビジネスパーソンに焦点を当てた集会を企画し、今までのキリスト教界に見られなかった画期的な伝道を行う彼らの活動に、いま、多くの教会が関心を寄せている。本紙はVIP関西会長の持田明広さんに、日本の「現在」を見つめたVIP関西の宣教戦略について聞いた。
サッカーにたとえれば、私たちの宣教は、ホームではなくアウェイでの戦い。だから、従来の教会の伝道スタイルを大きく変えていかなければならない、と持田さん。私たちクリスチャンのビジネスパーソンの願いは、職場の人たちや仕事の関係者が救われること。しかし、彼らの大多数は福音に無関心である上に、教会と職場が離れていることから、私たちが行っている教会には誘ってもなかなか来ない。
まず、クリスチャン人口1%という日本の現実を見れば、教会に行きたくない人、無関心な人にどのように福音を伝えるかが重要な鍵となる。残念なことに、クリスチャンが思っている以上に、ノンクリスチャンが抱いている教会のイメージは悪い。だから、いきなり教会に誘うよりワンクッション置いた方がよい場合が多い。そのための手段がVIPの集会であると位置づけている。
ノンクリスチャンが集まりやすいように、ホテルやレストランなどで集会を行なうが、VIP関西の集会で一番気を付けているのは、できる限り宗教色が出ないようにすること。特に日本人のビジネスパーソンは、宗教に強い嫌悪感を持っていることが多いからだ。ノンクリスチャンに注目されるゲストを招き、ビジネスなどの興味深い話をしてもらう中で、聖書の話や証をさりげなく取り入れてもらう。はじめは警戒心を持って来ていた人も、リピーターになるにつれ、次第に聖書や福音に慣れてくるので、伝道しやすくなる。最初から無理に伝道すると、次から来なくなることが多いので、集会に慣れ、スタッフとのある程度の信頼関係ができ、「ここは自分の居場所」と思ってもらえるようになるまで細心の配慮が必要である。
次に、クリスチャンの意識改革が必要になってくる。これまでクリスチャンは、教会や家庭集会という自分の土俵(ホーム)の上での伝道には慣れているが、ビジネス社会という土俵(アウェイ)での伝道はほとんど経験がなかった。だから、伝道熱心なクリスチャンであればあるほど、福音をすぐに伝えることしか頭になく、はじめてVIPの集会に参加したノンクリスチャンに嫌な思いをさせることがあった。VIPの集会には、最初は福音や聖書の話ではなく、人脈や有益な話を求めに来る人が多い。そこでいきなり熱心に伝道されたら、彼らは逆に引いてしまう。アウェイで戦うには、特に愛と知恵が必要である。彼らが何を求め何を考えているか、まず彼らの話にじっくりと耳を傾け、彼らの友となることが大切である。
次に、教会の変革も必要であるように思われる。VIPの集会を通して、教会に行ったり、受洗を希望したりする人も少なくない。私たちの最終の目標は、ノンクリスチャンが教会に繋がってくれることであるから、それは大変嬉しいことである。だが、紹介した教会が「合わない」と言って来られることがある。社会では、当然一人前の大人としての扱いを受け、各分野でそれなりの評価を得ているビジネスパーソンにとって、教会は窮屈で閉鎖的と感じられることが多い。同年代の男性が少ない、仕事上の悩みをわかってもらえないといった不満のほかに、意見が言えない、他の教会や集会に行かせてもらえない、「・・・してはならない」とよく言われる、礼拝を休むとすぐに連絡が来る、などといった不満が多いのはその現われである。それぞれの教会の立場、考え方があり、難しい問題ではある。だが、ようやく教会につながってくれたノンクリスチャンが、福音ではなく、それ以外の理由でつまずくのを見るのは残念でならない。日本の教会が一般社会に開かれたものとなり、教会間の連携・協力態勢が生まれてくることを心から願う次第である。
持田さんらが大阪で初めて信徒によるビジネスパーソン宣教に挑戦したとき、何をしてよいか全くわからなかった。そんな彼らを支えたのは、現在も毎週木曜早朝に行われている「北浜シャロン祈り会」。この祈り会から、VIP大阪などの各VIPクラブ、700〜2000人規模の大集会、さらに冒頭にあげた「VIP関西センター」「VIPアルパインローズ・ビレッジ」「VIPアメージングインタビュー」などが次々に生まれた。現在は、毎週金曜夜にも祈り会が行われている。これらの祈り会こそ、当時から現在に至るまで変わることのないVIP関西の原動力だという。
「将来は1万人の伝道イベントをしたい」「スーツを着たビジネスマンだけでなく、農村や漁村のVIPがあってもいい」など、神が与えるビジョンは決して絶えることがない。
今は価値観やニーズが急激に変化する時代。福音は変わってはならないが、伝道の方法は、その時その場所において、何が最も効果的であるかを考えなければならない。昨年成功した方法が今年も成功するとは限らない。今日の教会やクリスチャンは、この世の価値観に染まってはならないが、この世を研究し、その時代のニーズを見抜く眼、社会の急激な変化にも対応できる柔軟な姿勢を養っていくことが必要ではないかと語った。