キリスト教精神に基づき、イエス・キリストを模範とする人間教育を目指す近江兄弟社学園(滋賀県八幡市)に、同学園の創始者であるウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏(1880−1964)の来日100周年を記念した「ヴォーリズ平和礼拝堂」が完成したことが18日、わかった。同礼拝堂は、近江兄弟社学園本館の改築に合わせて昨年から建築が進められていた。
ヴォーリズ平和礼拝堂は、先月27日に竣工式が行われた同学園本館の5階に位置し、広さが約550平方メートルで半円状に550席(補助席を入れると750席)が設けられている。礼拝堂内には、ヴォーリズ氏の妻である一柳満喜子氏ゆかりのピアノが設置されたほか、ヴォーリズ氏ゆかりのハモンドオルガンも設置された。
「キリスト者として、生涯にわたって世界平和を願ったヴォーリズ氏の意思を引き継ぎたい」との思いから建設された同礼拝堂は、今後は生徒たちの礼拝所として、また世界平和のために祈る場として用いられるという。礼拝堂の完成にあたり、同学園の道城献一牧師は「近江兄弟社学園には長年チャペルがありませんでしたが、今回100周年を迎えてやっと礼拝堂が与えられました。教職員も生徒たちも大変喜んでいます。また、地域の人たちも大変期待しています。世界平和を願ったヴォーリズ氏の思いを受け継ぎ、この場で数々の平和のメッセージが伝えられることを願います」と語った。
来月19日には、仏教や神道、キリスト教など各宗教界から代表者を招き、地域、文化、宗教の壁を越えて世界平和のために祈る集いを、同礼拝堂にて初めて開催する予定だ。この集会は、「宗教は異なっていても、まず人間としての深い思いやりを持ち、相手と真摯に接すること」や「信仰の押し付けを避け、相手の主体性を尊重し、相手が『神の真理』に共鳴することを期待して接触し続けること」などを伝道の精神として掲げ、世界平和を願ったヴォーリズ氏の意向を汲んだもの。
具体的には、比叡山延暦寺(大津市)や多賀大社(多賀町)、同志社大(京都市)などから約100人の指導者たちを招待するという。関係者によると、集会全体では600人規模になる予定。また、10月下旬にもゲストスピーカーを呼び、平和に関するメッセージを伝える講演会を行う計画がある。世界平和を願い、同学園では今後も年に数回のペースで講演会を行っていく方針だ。
1900年代初頭に来日したヴォーリズ氏は、近江八幡の地で英語の教師をする傍ら聖書研究会を開き、YMCAを結成して日本の地に福音を宣べ伝えた。さらに、1910年には独立自給の「近江ミッション」を設立し、建築設計や医薬品の輸入・販売、ハモンドオルガンの輸入などを行って自活し、福音に基づくキリスト教的生活の実践を試みた。こうして、出版事業、医療事業、図書館の運営など数々の社会事業が展開されるようになり、その後生まれたのが近江兄弟社だ。近江兄弟社は、皮膚薬として有名なメンソレータム(現メンターム)を広く日本に普及させた企業として知られている。そのメンソレータムの輸入・販売業務を最初に行ったのがヴォーリズ氏だった。
一方、建築家としての才能があったヴォーリズ氏は、建築・設計事業にも多く携わった。今回ヴォーリズ平和礼拝堂の設計を担当したのは一粒社ヴォーリズ建築事務所。同建築事務所はヴォーリズ氏によって設立され、同氏の願いと思いを継承した設計・建築活動を行っている。同建築事務所が設計した代表的な作品には、大丸大阪心斎橋店(大阪、1922年)やフェリス女学院中学校・高等学校1号館(横浜、2002年)、日本基督教団聖ヶ丘教会(東京、2004年)などがあり、学校等の教育機関から教会、企業、介護施設まで多岐にわたっている。
「このような事業の全ては収益を目的としたものではなく、『様々な職業を通じて、人間生活の基準となるようなキリスト的生活を徹底的に実践すること』を目指した彼の伝道そのものだった」と関係者は証ししている。