「生きづらさ」をテーマに自殺と貧困を考えるシンポジウム「自殺と貧困から見えてくる日本」(いのちのフォーラムなど主催)が14日、上智大学で開かれ、市民や学生ら約770人が参加した。同大グリーフケア研究所長の高木慶子氏は、家族の縁の大切さを強調したうえで、「ご自分が困ったときに話す友人を大事にしておかなければならない」と家族以外の縁の重要性に触れた。NPO法人自殺対策支援センター・ライフリンク代表で内閣府参与の清水康之氏は、年間3万人が自殺する日本の現状について「社会として破綻しているとしか言えない」と問題の深刻さを改めて指摘し、対人的な個々の対応とは別に、社会システムを改善するための取り組みの必要性を訴えた。
同名のシンポジウムは今年3月にも開かれ、鳩山由紀夫首相(当時)や長妻昭厚生労働大臣(当時)、福島瑞穂内閣府自殺対策特命担当大臣(当時)が出席するなか、約800人が集まった。この日は、高木氏のほか、3月にもパネリストとして参加した清水氏、精神科医で立教大学教授の香山リカ氏、反貧困ネットワーク事務局長で内閣府参与の湯浅誠氏の3氏を迎えた。
高木氏は、昨年12月に阪神・淡路大震災の遺族を対象に神戸新聞が行ったアンケート調査で、自分を支えてくれたものに家族を挙げた回答が過半数だったのに対し、亡くなった家族について誰と話したかとの質問で家族との回答がわずか2割弱だったことを挙げ、家族以外の縁の必要性を強調した。また、家族以外の縁を保つことが都市化や核家族化、地縁の希薄化によって困難になっていることも指摘した。
高木氏は、自殺予防に関連した情報を個人レベルで積極的に発信すべきだとし、「国がどんなに対策をつくっても、個人としての力がなかったら生きていけない。個人的なつながりをとても大事にしたい」と訴えた。
香山氏は、自殺と貧困の問題に加えて終末期医療の問題にも触れ、「一方で生きづらい、一方で死にづらいと苦しむ人がいるのが現実」と述べ、関連する政策の整備は必要としつつも「そんなことがなくてもできたことが、できなくなっている」と危機的な状況を改めて強調した。
清水氏は、自殺者が年間3万人いれば未遂者は10倍の30万人おり、さらにその周囲にいる5〜6人の家族や友人が心理的影響を受けているとし、「たった1年間で200万人近い方たちが自殺による悲しみの連鎖に飲み込まれている」と問題の大きさを指摘した。また、自殺対策ではしばしば現場の対人的な対応が注目されがちだが、自殺を生み出す社会システムを冷静に見直す作業も重要だと語った。
湯浅氏は、正規雇用者に比べて非正規雇用者の未婚率が高いことや、金銭的な理由で実家から出られない30代から40代が増えていることを挙げ、「貧困問題と無縁社会の問題が根っこでつながっているのではないか」と指摘した。