この映画で、まず気になるのがタイトル『アルマゲドン』である。ユダヤ人またクリスチャンなら、イスラエルのイズレエル平原地帯(新改訳聖書ではハルマケドン)のメギドで起こると預言されている世界最終戦争アルマゲドンの内容を予測するだろう。この地はイスラエルで最も肥沃な農作地帯であるが、また交通の要という原因で最も戦争が繰り返された場所でもあるのだ。
私も映画タイトルに魅かれてワクワクしながら鑑賞したのだが、大きな落胆が待っていた。大迷惑なことに、この映画でのアルマゲドンは聖書預言の世界最終戦争とは全く関係がないのだ。しかし、多くの日本人鑑賞者が「これが聖書に書いてあるアルマゲドンか」と誤解したようである。
この映画がいかにデタラメな内容であるか、呆れ返るのだ。この作品は数々の賞に名を連ねた。1998年最悪作品賞、最悪監督賞、最悪主演男優賞、最悪脚本賞、その他最悪・・・賞が続くのだが、また最低作品賞・・・など二つの受賞イベントからお墨付きで「最悪」「最低」を総なめにしたのだ。
それにもかかわらず、大ヒットしたことの理由は『アルマゲドン』というタイトルにあり、この言葉が欧米においていかに衝撃的な響きを持っているか察していただけるだろう。
あらすじは、流星雨の直撃によって衛星修理中のスペースシャトルが爆発し、宇宙飛行士も全員死亡することから始まる。さらに、流星雨はそのまま地球の大気圏を突破してニューヨークに降り注ぎ、壊滅的打撃を与えた。
流星雨の発生原因を調査した結果、彗星が小惑星帯に突っ込んだ折に起こったことがわかったのだが、同時に小惑星が地球への衝突コースを取っていることも発見する。ところがその小惑星はテキサス州(日本の国土より大きい)の大きさにも匹敵するのだ。人類を滅亡させるには東京サイズ、いや港区サイズの小惑星で十分だろう。テキサス州サイズなら、小動物以外の地上生命体は絶滅するはずなのだ。人類滅亡まであと数日。
しかし、小惑星爆破計画が成功し、地球は壊滅的ヒットから救われる。バンザイ、バンザイというわけだ。恋人同士がキスをしておしまい。馬鹿馬鹿しい。見ちゃあいられない。
この映画の大きな科学的間違いは、小惑星を爆破しても地球は同じような被害を受けることを避けられないということだ。爆破しても小惑星はなくなるわけでも、コースを変えるわけでもない。テキサス州サイズの惑星のコースを変える技術は今のところ開発されてない。直径50メートルの隕石が雨のように降り注げば、同じ結果になる。しかも小惑星を爆破したところで、テキサス州サイズを500個の東京サイズ隕石にすることなどもできないのだ。
『アルマゲドン』の二ヶ月前に封切りになった『ディープ・インパクト』は、『アルマゲドン』が「キャラクター」を前面に出していることに対して、彗星衝突という「シチュエーション」を前面に出した作品であり、科学的な見地からは『ディープ・インパクト』の方がはるかに興味深い。
彗星と小惑星はどう違うのか
両方とも太陽系小天体なのだが、彗星はほうき星とも呼ばれているように、太陽に近づくと明るく長い尾を引く。なぜなら、その主成分は塵と氷からなっているから、太陽に近づくとその熱によって氷が解け、ガスと塵が放出されて長い尾を引くのだ。その尾の長さは太陽の直径(139万キロメートル)よりも長くなる時もあるのだ。私は二十数年前に米国でハレ―彗星を観察する幸運に恵まれた。小惑星は、その星像に拡散成分のないものと区別できるということは、尾がないのだ。素人っぽい言い方をすれば、二つの違いは尾があるかないか、なのだ。また、直径1キロから小惑星と呼ばれるが、彗星ははるかに大きなサイズであろう。
それでは、小惑星や彗星が地球に衝突する可能性はあるのか。宇宙物理学者たちは、多いにあり得るという。それに対する解決案は、小惑星を爆破することではなく、コースを変えることだそうだ。しかしながら、太陽系小天体のコースを変えることができるかは不確かなのである。もし、コースを変えることができるにしても、地球衝突3年前に小惑星を発見できなければ、なす術はないというのだ。
『アルマゲドン』で描かれたように数日前発見では回避の可能性は皆無。すべてを忘れて人類を霊的に救うために伝道する以外には何もないだろう。彼らが小惑星のコースを変えるというのは、ほんの1ミリほどでよいのだが、核弾道ミサイルを打ち込むだけでそれができるかは不明である。恐らく、無理。今の技術では。
恐竜絶滅説の中で各方面の科学者たちから最も支持を受けているのが6500万年前の巨大隕石衝突によるというものらしい(私は同意しないが)。隕石とは地球以外の天体の小片が地球に落下したものである。ただ、小片といえども、そのサイズは大きな違いをもたらす。ユカタン半島のチュチュラブ・クレーターが巨大隕石の落下跡として取り沙汰されている。しかし、その後インドのシヴァ・クレター(四倍の大きさ)が発見され、その隕石衝突があまりにも激しかったので、地球の裏側にも波動が生じ、下から突き上げられる衝動でチュチュラブ・クレーターが形成されたという修正説もある。
この恐竜絶滅説の正否は別にして、隕石はその直径が50キロならば、地球生命体に壊滅的な被害をもたらすことは間違いない。そのインパクトは太陽光を遮断するほどの塵を撒き上がらせ、やがて地球は塵に覆われ、長期的な氷河期を招くのだ。
ヨハネ黙示録6章13節に、子羊が第六の封印を解いた時、「天の星が地上に落ちた」と書いてある。今日のように科学の発展により、宇宙の神秘が次々と解明され天の星が落ちてくることは大いにあり得るとされているが、「天の星が地上に落ちた」と宣言するほどの情報を、ヨハネはどこから得たのであろうか。彼は聖霊の啓示によったと言っている。
学者たちは巨大隕石の落下も、彗星や惑星の地球衝突は起こると断言している。しかし、それがいつ起こるかは誰にもわからない。ただし「一日は千年のごとし」である。6500年後は気が遠くなるほど遠い、しかし天文学的視点で見るなら6分30秒ほどに過ぎない。6万5000年前から計るなら、その期間はすでに過ぎたことになる。地球の時間は1日24時間だが、宇宙の時間と神の時間は全く異なるのだ。聖書は「主の日は盗人が来るように来る」と教え、「備えよ」と命じている。
平野耕一(ひらの・こういち):1944年、東京に生まれる。東京聖書学院、デューク大学院卒業。17年間アメリカの教会で牧師を務めた後、1989年帰国。現在、東京ホライズンチャペル牧師。著書『ヤベツの祈り』他多数。