【CJC=東京】2001年9月11日の米中枢同時テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センタービル跡地『グラウンド・ゼロ』近くに、モスク(イスラム教の礼拝所)も含めた文化施設を建てる計画が明らかになったところ、たちまち「不適切だ」との反対運動が起こった。秋の中間選挙を控え、政治家らも巻き込んで賛否論争が激化している。
計画は、『グラウンド・ゼロ』の北側約200メートルにある元縫製工場ビルを取り壊し、イスラム教普及団体『コルドバ・イニシアチブ』が、モスクやプール、劇場、レストランを備える文化施設を1億ドル(約85億円)で建設、「地域のコミュニティーセンター」として活用するというもの。
『コルドバ・イニシアチブ』は「西洋とイスラムの懸け橋」をうたい、ニューヨーク在住のイマーム(イスラム教指導者)のフェイサル・アブドゥル・ラウフ氏(62)が04年に設立した。
ラウフ氏は、同センターをYMCAのイスラム版として構想している、と語る。見本となったのは市内92番街の『Y』で、そこはYMCAのユダヤ教版とも言うもの。無宗教まであらゆる宗教の人が講演を聞き、議論し、講座に参加できる所だ。センターは、ハイジャックなどには反対する穏健派イスラム教のシンボルとして、イスラム教以外の人にも開かれたものとするねらいだった。
ところが計画に対し、テロ事件の遺族や消防士、地元市民らが「無神経」「不適切」と反発の声が上がった。センター建設を阻止しようと、現在のビルを歴史的建造物として保存するよう求める動きまで出た。
ニューヨーク市の歴史的建造物委員会は8月3日、01年の米中枢同時テロで崩壊した世界貿易センタービル跡地近くにモスクを含むイスラム教関連の文化施設建設を認可する決定をした。
バラク・オバマ米大統領は13日、イスラム教の文化施設建設計画を支持すると発言し、共和党などから批判の声が出ている。
この発言について、大統領は14日に静養先のフロリダ州で、イスラム教徒もほかの人と同じ信仰の権利を持っているとして、世界貿易センタービルがあったローワー・マンハッタン地区に礼拝所など文化施設を建設することも、そうした権利に含まれると述べた。
一方、11日に発表されたCNNテレビと『オピニオン・リサーチ』の共同世論調査によると、7割近くがこの計画に反対。政党支持別の内訳では、民主党支持者が54%、共和党が82%、独立系が70%となっている。
建設計画に関し、民主党のハリー・リード院内総務は16日、別の場所に建設するべきだとの考えを示した。デビッド・パターソン・ニューヨーク州知事も、建設地の移転などについて、イスラム教関係者や開発事業者と協議する意向という。