中田重治監督の再評価
今まで羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くように、中田重治監督の働きの中核の一つであったユダヤ民族への伝道についての検証や評価は、戦後の一時期までは封印されていた観がありました。これは私見ですが、現在、旧ホーリネス系の諸教団では、真摯にユダヤ人伝道に取り組んでいる器が少数ですがおられます。
しかし、ユダヤ人伝道についてこの二十数年来、個人的に思っていることがあります。日本において神は、旧ホーリネス系の奉仕人へも御業を進めようとしておられますが、ペンテコステ・カリスマ派の方々や、旧ホーリネス系以外の福音派、また社会派からも多くの働き人を起こされています。むしろ今では、旧ホーリネス系の人々の働きを凌駕していると思います。
その理由の一つとして、福音派の範疇にある旧ホーリネス系では、日本民族の使命、日猶同祖論あるいは十部族論といった中田監督の提唱したテーマに対してのアレルギーから、ユダヤ人伝道という救済論のカテゴリーに入るものまで拒絶してしまう傾向が感じられます。歴史的経緯から当然起こり得る反応かもしれませんので、無理からぬ側面もあります。ユダヤ問題全体を十把一絡げで捉え、否定的に理解する傾向です。
かつて中田監督は一時、伝道さえもさておいて(詳細に記録に当たると同氏はそのようには言ってはいないのですが)祷告に励む時だと言ったのだから、今はユダヤ人伝道は一時さておいても、教会形成、伝道に取り組む時だという弁も中にはあります。ユダヤ人伝道への重荷は今や過去のこの件についてのしがらみやトラウマのない方々へと、神がシフトされつつある空気を感じています。
時代はどんどん変化しますので、フレキシブルに対応していかなければと思います。2003年秋には、多くのメシアニック・ジューたちが各種団体の招きで来日しました。彼らの来日と時を同じくして、パリに本部を置く国連のユネスコが日本人事務局長・松浦晃一郎氏名で、機関決定の声明を出しました。一世紀にわたって反ユダヤ主義の教本となっていた「シオンの議定書」は偽書であり、反ユダヤ主義そのものであるというものです。
かつてのナチス・ドイツのヒトラー、また今日のアラブ・イスラム諸国の一部マスコミ等で真書とされ、反ユダヤ主義宣伝のバイブルとして喧伝されているものです。国連から公式にこれが偽書とされたことは意義深いと思います。なぜなら日本のキリスト教界の中でも、この偽書を真書として反ユダヤ主義の自己主張に引用する者もあるからです。
さて、来日したメシアニック・ジューのヨセフ・シュラム氏の特別セミナーで、「預言書に見る日本の使命とは」との主題で、黙示録7章1節から3節を中心に中田監督の提言した「東方の天使」の役割についての講演がなされました。その要点は、1節の四人の御使いを、2節に出てくる「もう一人の御使い」が、イスラエルの救いのために執り成しの祈りや捧げ物、働きを通して助けるものであり、これは預言的に見て、重荷を持った日本のクリスチャンたちのことであるというものでした。
中田監督に対する概ね好意的なシュラム氏の解釈は、一石を投じるものだと思います。これに先立つ講演で「ユダヤ的預言解釈入門」と題して、聖書預言の解釈を丁寧にしています。
同様に、イスラエルでイスラエル以外の諸国へ宣教師を派遣している「ケレン・ハシュリフット」の米国出身のガブリエル・ゲフェン氏も来日奉仕し、以下のように述べています。「皆様が聖書の信仰をもっと日本的な方法で公に表現し、それに生きることができるようになるなら、本当に力強い証しとなると思います。それが具体的に何であるかを言うのは私の仕事ではありません。それは皆様が自分たちで見出さなければならないのです。もし、皆様が主を求め、それが具体的に何であるかを示して下さるように主に求めるならば、主はそれを示して下さるでしょう。・・・・・・神様が皆様を日本人として創られたことの素晴らしさを、皆様自身がはっきり認識されるように私は励ましたいのです」。
福音の文脈化の作業は大変難しいと思いますが、近い将来、日本の教会は良い意味において民族の福音化の過程において変化していく可能性があると思います。かつての昭和のリバイバルの要因の一つとして、アメリカからの経済的サポートから独立する過程で真剣な祈りが捧げられ、必死で伝道したことが挙げられます。
将来起ころうとしているリバイバルでは日本の諸教会は、一人前に立っていくため、諸外国のどんなサポートや関係からの聖別を神から示されるのでしょうか。それは偏狭な民族主義的教会とか、日本至上主義とか優越主義とは別個のものだと思います。真の国際主義的な世界宣教の使命に燃えた、キリスト教界以外の多くの日本人からも理解される、宣教協力で一致した教会に神は建て上げようとしておられるように思えてなりません。メシアニック・ジューと日本の教会の宣教協力が一部で模索されていることは、何か日本宣教について大切な示唆を含蓄している可能性があります。
田中時雄(たなか・ときお):1953年、北海道に生まれる。基督聖協団聖書学院卒。現在、基督聖協団理事長、宮城聖書教会牧師。過疎地伝道に重荷を負い、南三陸一帯の農村・漁村伝道に励んでいる。イスラエル民族の救いを祈り続け、超教派の働きにも協力している。