「ですから、あなたがたの確信を投げ捨ててはなりません。それは大きな報いをもたらすものなのです。」(ヘブル10:35)
人間はなぜ病気になったり、イライラしたり、死んだりするのでしょうか。ハンス・セリエ博士は、次のように説明しています。
“自動車は古くなったからといって、急に動かなくなることはありません。部品のどれかが使いものにならなくなるから、動かなくなるのです。人間とても同じです。精神的にあるいは肉体的に、ストレスを絶えず受け続けると、体のどこか大事なところがだめになっていろいろ病気になり、果ては死んでしまうというわけです”
「ストレス」という語は、もともとは物理学のことばで、“一つの糸に加えられた緊張、圧力、張力”という意味です。歪みを起こさせる反応、アクションです。語源はラテン語の、“引き締める・困らす”などから来ています。
一番悪いストレスは、憎しみ、欲求不満、不安です。なぜストレスが起こるのか、多忙で競争的で不確実な時代が大きな緊張を強い、ストレスを増大していると言えます。
しかし、ストレスを起こす直接原因は、もっと身近なところにあります。たとえば、生活環境の変化です。見知らぬ土地に引っ越すと、だれでも多少なりともストレスを経験します。職場が変わる、学校が変わる時も、同じことが起こります。
家庭の中にもストレスがあります。多くの場合は、人間関係の歪みが原因です。嫁姑の対立、夫婦の不和、親子間の不満はその代表的なものです。その他にも、生活費、住居その他の経済問題、子どものしつけや教育問題、近隣・親戚との交際など、多種多様の問題があり、互いにそれが複雑に絡み合っている場合が多いのです。
職場のストレスはもっと千差万別です。セールスのノルマ、昼夜三交代制から来る不眠、対人関係のプレッシャーなど、職場のほとんどの問題は、ストレスに結びつきます。
しかし、ストレスの本質的な問題は、実に本人に自信がないために起こることが極めて多いのです。自信欠乏とストレスの関係はたいへん密接です。自信ゼロの状態に置かれると、誰でもストレスがいやが上にも高くなります。
だからストレスの問題は、職場を変えたり、仕事を投げ出したりという外面的なことでは解決できないのです。いろんなストレス解消法がありますが、ポジティブな人生観を養わない限り、一時的な気休めに終わってしまいます。
このプログラムを読まれたあなたは、もうずいぶん自信を身につけたと思います。考え方も前向きになり、ことばも積極的に明るくなり、人生態度も行動力も変わってきたことと信じます。
この本でストレスに打ち勝つパーソナリティをしっかり自分のものにして下さい。それはポジティブな態度を身につけることです。
一、自分の長所やプラス面に注目しよう
これは最も重要なポイントです。自信の欠如や低い自己イメージ、自己嫌悪、愛されていないという感じ、そして根本的な不安感、これらが実はストレスの問題の根底に潜んでいるのです。
マクスウェル・マルツ博士は、統計上、優に九十五パーセントの人々が、何らかの劣等感に悩んだ経験を持っていると指摘しています。
アルフレッド・アドラーは、人々が抱える問題のほとんどは、劣等感がその根本原因であると言っています。
ネガティブな自己イメージのために、一生を棒に振ってしまうことは悲しいことです。何をするにしても“あの仕事は無理だろうなあ、私にはそんな力はないもんなあ”“あの人は私のことが好きじゃないんだ”“今度の試験も落第に決まっている。今まで良い成績なんか取った試しがないんだから”“今日も売れないだろうなあ、昨日もだめだったし、断られに行くようなもんだ”そんな考えが、頭にも体にも態度にもこびりついて、離れないのです。
十分な自信がないために、やりたいことをやろうともせず、欲しいものを追求するのも恐れるのです。その結果、欲求不満、不幸、緊張、その他の症状多数という羽目になってしまうのです。
このような低い自己イメージの原因は、“なんでお兄ちゃん(お姉ちゃん・弟・妹)みたいにできないの!”“なんてぐずなの!”と小さい時から言われてきたことにもあります。だから、親は子どもがやり遂げたことを、誉めたり励ましたりして、自信を養ってあげる責任があります。
一度悪い種が蒔かれてしまうと、必ず有害な実が実ってしまいます。こうなると、もう悪循環の繰り返しで、否定的な自己像はネガティブな行動を導き、それがまた自分は何と劣った人間なんだろうという意識を強め……といった具合です。この悪循環から脱出しなければなりません。
“できそうにないなあ”と思い始めたら、“いやポジティブに考えなければ。できる、やるぞ!”と自分に言い聞かせるのです。それが習慣になるまで続けるのです。三日坊主にならないように、最低三週間は、繰り返してごらんなさい。鶏でも、三週間がまんして雛をかえすのです。新しいあなたは必ず誕生します。あなたに期待しています!
二、ポジティブとは、自己主張ができるということ
駅や宝くじ売場に並んでいて、前に誰かが割り込んできた、でも黙って見過ごした、そんな経験はないでしょうか。毎日の生活の中で、いっぱいそれに似た経験をします。優柔不断な態度は、自信不足から来ます。どうせだめだろう、そんなに事を荒立てなくても……等々。自己主張をするということは、攻撃的になったり、好戦的になるということではありません。
自己主張するためには、自分を好きになることです。そうすれば、他人の思惑をそんなに気にしなくて済みます。自己主張が正しくできると返って魅力的になるし、気骨のある人だとわかるともっと尊敬され、好かれるようになります。
声を荒立てず、穏やかに、落ち着いた態度で、しかし驚くほどきっぱりと自己主張はできるのです。“あなたのお立場はわかりますが……”“確かにおっしゃるとおりなのですが……”“できればそうしたいところなのですが……”と前置きをする癖をつけましょう。
他人に左右されずに、自分自身の願望や好き嫌い、価値観に従って行動する術も知らなければなりません。いつも他人の要求や期待通りに動き、人を喜ばせるために自分の希望を犠牲にしていしまうから、ストレスが溜まるのです。
本当に自己実現を果たしたければ、一個の人格として、他人のくびきを断ち切る勇気も必要なのです。一生をドア・マットのように生きてはなりません。
三、他人の美点・美質を探すこと
良い点を探していると、その点が引き出され易く、欠点を探していると、欠点だけが目につくものです。愛を持って接すれば、それだけ返ってくる愛も大きく、憎しみで接すると、やはり憎しみが返ってくる、ブーメランみたいなものなのです。
やまびこと少年の話があります。ある夕方、少年が息を切らして家に駆け込んで来ました。“お母さん、たいへんだよ。山の向こうに悪い子がいて、ぼくを殴るって言ってるよ”賢い母はこう答えました。“そう、今度はあなたの方から、優しい声で呼んでごらん。大丈夫よ。殴りになんか来ないわよ”少年は呼びかけました。“オーイ!オーイ!君はいい子だよ!仲良くしようよ!”“君はいい子だよ!仲良くしようよ!”“今度いっしょに遊ぼうね!”“今後いっしょに遊ぼうね!”
少年は大喜びで家に駆け込みました。“お母さん!やっぱり良い子だったよ。今度一緒に遊ぼうって!”
対人関係から来る苦しみや憎悪、焦慮などは、他人の美質を積極的に探し出そうとする姿勢を養うことで、大幅に解消できます。人の美点・美質を探すポジティブな態度が身につくと、また別のポジティブな習慣が養われてきます。それは、機会あるごとに相手の長所を褒めるという習慣です。
今日はいつになく素敵だと思ったら、それを知らせてあげる。何か賞賛に値することをやった人がいたら、ためらわず早速褒めたたえる。そうすると同じ喜びを分かち合えるだけでなく、相手からもうんと好かれるようになります。
夫婦でも親子でも、隣人、先生(生徒)、同僚、上司など、誰でも試してみて下さい。相手の才能に期待し、美点に注意し、立派だと思ったら、惜しみなく褒めたたえましょう。返ってくる反応に、きっと驚嘆すること請け合いです。
四、明るい希望を探し出す
悲運や逆境、不運な出来事は、誰もが皆、経験するものです。そういう時、くよくよしたり、すねてみたり、わめき散らしたり、不運を呪い、悲嘆にくれるのは愚かなことです。賢明な人なら、すでに起こってしまったことは、どうあがいても、もはや元には戻らないことを知っているからです。そこから良い方向へ向かう道を探すことが、明るい希望への道なのです。
大阪市内で一番高い山は、海抜四十五メートルの鶴見新山です。二十年前まで、この山はありませんでした。万国博覧会の時、地下鉄工事で出た瓦礫や土を、当時の城東区の沼地に捨てました。どんどん捨てるうちについにその泥土は山となり、その山に三十万本の常緑樹を植えました。花の万博がありましたが、その会場となったのが、役に立たない瓦礫や泥土の山だった鶴見緑地公園なのです。
「雨降って地固まる」とか、「禍転じて福となす」、という諺にもあるように、どんな出来事の中にも、明るい希望を見いだすとき、ストレスに打ち勝つことができるのです。
五、失敗したら学べ、そして後は忘れること
失敗を忘れてはいけないと言いますが、いつまでも同じことをくよくよしていてもどうにもなりません。人生にはまだまだすばらしいことがたくさんあるのです。失敗から教訓を学んだら、新しい明日に向かって出発するのです。確かに失敗はしたでしょう。しかし、大切なことは同じ間違いを繰り返さないことです。あとはもう、くよくよせずに前進あるのみです。そんなことでストレスを溜めて、命をすり減らすことはありません。まだあなたがなすべきすばらしいことが、人生にはたくさん残っているのです。
六、失敗や拒絶を恐れず、試みてみること
拒否されるのが恐ろしくて、尋ねてみもしなかったり、失敗を恐れる余り、チャレンジもしない、それでは何も達成されません。失敗は成功の元という諺がありますが、一〇〇パーセント成功する自信が来るまで待っていたら、人生にさようならするまで、何もすることはできません。
ストレスの一つに、あの時ああすれば良かった、こうもすれば良かったと、くよくよすることがあります。そうならないためにも、チャレンジしてみることです。「不可能は挑戦となり可能となる」、すばらしい奇蹟を体験して下さい。世界の成功者たちは恐らく、誰よりも多くの失敗を重ねた人たちです。欲することを恐れず求め、追求する。もちろん、失敗の可能性を全く顧みないで、猪突猛進するわけではありませんが、冒険はするのです。その結果、失敗もありますが、それだけ成功は人よりも大きくなるのです。ある意味で、成功は勇気ある挑戦によって獲得されるのです。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という諺があります。少なくともやってみるだけ強くなれたんだと思えば、ストレスは解消されます。
七、成功するのだという確信を持ってすること
予想される敗北や失敗によるショックを和らげようとして、予め、本当に見込みはないんだと自分に言い聞かせる人がいます。そうしておけば、失敗した時の失望が少なくて済むからというのがその理由です。それは愚かなことです。失敗を予測することが、失敗する可能性を作り出しているのです。現代の心理学はそのことを証明済みです。
収穫を期待しないで、種を蒔く農夫はありません。漁獲を期待しないで、漁に出る漁師もありません。勝利を期待しないで、野球をするチームもないでしょう。売り上げを期待しないで、営業活動するセールスマンがいたらおかしいのです。
世界はあなたの確信に報いようとして待ち構えています。期待をすることは、期待通りの結果がもたらされるということです。
確かに、豊かに蒔く者が豊かに刈り取るということは、普遍の原則です。ですから、何事をするにも確信を持って実行して下さい。あなたの確信には、いつも豊かな報いが約束されています。
あなたはポジティブな人になれます。ストレスに“さようなら”して、他の人のストレスも解消するほどの豊かな日々を過ごして下さい。
人生に成功する八段階
一、自分に能力があると思われる仕事をすること。
二、自分の仕事にふさわしい場所を確保すること。
三、自分の仕事に熱中すること。そしてやり遂げること。
四、節約をすること。しかし、けちでしみったれないこと。
五、組織だった仕事の進め方をすること。
六、宣伝をすること。良いものを持っていれば、人に知らせる義務がある。
七、愛の心を持つこと。善行には必ず報いがある。
八、正直であれ。正直は最良の方策である。正直さを失った人は、大切な信用を失う。
(C)プレイズ出版
榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書「輝き・可能性への変身」(2000年、プレイズ出版)は、同師が「ラジオ番組 希望の声」シリーズとして出版したもの。机上の空論ではなく、著者自身がその生涯において実現し、今も継続している生きた証しを紹介している。