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ジョン・バンヤンの生涯

天国への旅―ジョン・バンヤンの生涯(17)天に帰る日

2023年8月23日17時35分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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天国への旅―ジョン・バンヤンの生涯(1)鋳掛屋の子+
ジョン・バンヤン(1628〜88)の肖像画(英国立肖像画美術館所蔵)

1688年。英国国教会の信徒を挙げて「信教自由令」に反対の運動が起こり、ジェームズ2世は7人の監督を留置するという手段に出たが、国民の反対に遭い、フランスに逃亡してしまった。

その後迎えられたのがオレンジ公ウィリアムだった。彼は11月にトーベイに上陸。12月にロンドンに入城した。その際戦闘は起きず、一滴の血も流れなかったので「名誉革命」と呼ばれ、歴史的に長く記録された。

こうして、政局がめまぐるしく変わる中、バンヤンは相変わらず執筆に余念がなかった。『人間の最も卑しい者たちへの良き知らせ』『イエス・キリストの唱導』『神殿建設に関する講話』『霊的にされたソロモンの神殿』『生命の水』などが続いて世に出た。

この年の8月。バンヤンは招かれてロンドンに説教に行く途中、レディングに立ち寄った。ここにかつて父親の不興を買って勘当されたネルソンという若者が住んでいた。バンヤンは何とかして父親と和解させてやりたいと考えたので、彼を連れて父親のもとを訪れた。

「あなたがたはお互いを思いやっているために、ちょっとした意見の違いから、誤解を生じさせてしまったのですね。お父さん、ネルソン君は、心からあなたと和解したいと思っているんですよ」

するとネルソンは、父の前に進み出て言った。「お父さん、自分は思い上がった態度から、ああいう心にもない言葉を口にしてしまいました。でも、心の底からそう思っているわけではないんです。すみませんでした」

そう言って頭を下げた。すると、父親の目は見る見る輝き、両手を差し伸べて息子を引き寄せた。「私の方こそ、短気を起こしてすまん。そのう・・・歳を重ねるとだんだん頑固になってきてな。いつでもいいから、また帰ってきなさい」

そして、この親子は和解し、ネルソンは再び両親の所に帰ることになった。

こうしてこの親子が和解したので、務めを果たしたバンヤンは、また馬に乗り、出発した。ちょうどこの時、突風が起こり、雨が激しく降り始めた。

「バンヤンさん、どうかここにお泊まりください。嵐がきますよ」。2人は引き止めたが、バンヤンは首を横に振った。「一刻も早くロンドンに着いて、片付けたい用事がありましてね」

そして、嵐の中を一目散に馬を走らせた。荒野に差しかかると、嵐は一層激しくなり、荒れ狂った。横殴りの雨が絶えず吹きつけてきた。

バンヤンは、全身ずぶ濡れになりつつも、必死で馬を走らせた。そして、ホルボーン橋のたもとに住む友人で食料雑貨商ストラッドウィックの家にたどり着いた。

驚いて出てきた家の人がドアを開けた途端、彼は倒れ込み、気を失った。疲労と発熱のために全身びっしょりと汗をかいており、手足は震えていた。急いで医者を呼んだが、高熱のために肺炎を起こしており、もはや命が危ぶまれた。

それでも19日の聖日には病を押して、ホワイトチャペルの近くのガマンという人の会堂で説教をし、ストラッドウィックの家に戻ってきたときには重体になっていた。

そして、その月の31日の夜、この友人宅で息を引き取ったのだった。最後の言葉は、「今、参ります」だった。

遺体はロンドンのフィンズベリーのパンヒル・フィールズに埋葬された。遺族は、先妻の3人の子と妻エリザベス、エリザベスの子セアラとジョーゼフだった。

盲目の長女メアリーは父より早く世を去り、妻エリザベスは1691年に世を去り、長男ジョンは鋳掛屋を継ぎ、父の死後ベッドフォードの教会の有力な会員となった。ジョウゼフはノッティンガムに落ち着いて、国教会に帰依したと伝えられている。

*

彼は今、夕焼けの空に向かって旅をしようとしていた。すぐ前から、真っすぐに天の都まではしごがかけられている。背後には、罪や絶望があったけれど、彼にとってはなつかしい地上の都があった。皆別れを惜しんでいる。

いつの間にか目の前を『天路歴程』の主人公クリスチャンが駆けていく。あれは自分の分身だった。そう、クリスチャンの自分は、この一生の熱情を全て注いで書き上げた文学作品を通して、後世の人たちのために天国までの道備えをしたのだ。

(では、さようなら!)

彼は地上の人に向かって大きく手を振り、軽々と雲の上に出たはしごを登っていった。

*

<あとがき>

世界史上名高い「名誉革命」は、文字通り一滴の血も流されずに改革が遂行された歴史的事件で、別名「無血革命」とも呼ばれています。くしくもこの記念すべき出来事が起きた年の8月に、バンヤンもその平和と和らぎの使徒としての任務を果たし終えて天国に凱旋するのです。

しかし、全ての人に奉仕し尽くしたその生涯の最後を飾るかのように、一つの任務が彼に与えられました。それは、説教のために招かれてロンドンに向かう途中、レディングという所に立ち寄った際、父親から勘当されたネルソンという若者のためにとりなしをし、父親と和解させたことでした。

この任務を果たし終えて帰る途中、豪雨に遭い、ずぶ濡れになった彼は熱を出し、急性肺炎のために死去したのでした。いかにもバンヤンらしく、この最期のエピソードは彼の生涯を飾る冠のように思えます。

今回をもちまして「ジョン・バンヤンの生涯」は終わりです。長らくご愛読くださった方々には心より御礼を申し上げます。

<<前回へ

◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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