イエス・キリストは私たちを愛して、その血によって私たちを罪から解き放ち、また、私たちを王国とし、ご自分の父である神のために祭司としてくださった方である。(黙示録1:5、6)
アメリカに、優れた将軍で、天才的な文学者としても有名なルー・ウォーレスという人がいました。
彼は過激な無神論者でした。大学をはじめ、方々で無神論の講演をして、多くの人に影響を与えていました。
ある時、彼は数人の友人に誓いを立てました。それは「キリスト教をこの世界から失くすために、キリストを否定する本を書く」という誓いでした。それから5年間というもの、ルー・ウォーレスはキリストを否定するため、夢中になって調べはじめたのです。キリストが生きたイスラエルへ行き、キリストに関するあらゆる研究をしました。また、ヨーロッパやアメリカのほとんどの主要な大学の図書館を回って、キリスト研究を重ねました。
こうして5年間が過ぎ去り、やがて彼は、資料の山に囲まれて、キリスト撲滅論の第一章を書きはじめました。心の中には、キリストへの激しい憎しみが渦巻いていました。
第二章まで書きすすんだ、ある夜のことでした。突然、彼はペンを投げ出しました。そして、いすから崩れ落ちるようにひざまずき、イエス・キリストに向かって叫んでいました。「わが救い主よ!わが神よ!」と。十字架に釘付けされながらも、「父よ。彼らをお赦しください。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです」(ルカ23:34)と叫び祈るキリストの声が、ずっとルー・ウォーレスを悩ませつづけていたのです。
彼の心を変えたもう一つの理由は、復活の出来事でした。三日目に、キリストの体は墓から消えていました。それを境として、弟子たちの中に一大変化が起こっています。あの臆病でおどおどしていたキリストの弟子たちが、大胆不敵になりました。そして山をも崩しかねないほどのエネルギーを爆発させて、「キリストが復活した」と叫びはじめたのです。考えられない大逆転です。
弟子たちはキリストの復活に、文字どおりいのちをかけていたのです。炎も剣も獅子の牙も、彼らはもはや恐れませんでした。こうして、30年、40年、弟子たちの伝道活動は変わることなく続きました。やがてついには、全員が殉教の死を遂げたのです。
「父よ。彼らをお許しください」という十字架の祈りのことばとともに、この復活の出来事が、ルー・ウォーレスを苦しめつづけていました。そして、その夜突然、彼はキリストが救い主であり、神であることが分かったのです。それは一瞬にして目が開かれるような経験でした。とにかく、彼の心は素直になって、キリストを信じることができたのです。
イエス・キリストを信じた彼は、書きかけの原稿を破り捨て、新しくペンを握りなおしました。そこで書かれたものこそ、キリスト時代を扱う文学作品としては、比類のない最高傑作と言われてきたあの「ベンハー」という小説だったのです。彼は自分の体験した奇跡とも言える出来事をベンハーに託して、全世界に発表したのです。
恨みと憎しみに燃えたぎるベンハーが、ただただ復讐の鬼と化してエルサレムの郊外をさまよっていました。丘に急ぐ大勢の人々に出会い、ついていくと、ちょうど一人の男が荒削りの生木を組んだ十字架を背負い、ヨロヨロと引かれていくところでした。その顔には石が飛んでき、ローマ兵のむちがうなりを上げていました。
やがて男は十字架の上に押し倒され、両手両足に太い大釘が打ち込まれました。それがすむと、十字架は丘の上にまっすぐに立てられました。その時でした。十字架の上から、「父よ。彼らをお赦しください。彼らは、何をしているのか自分で分からないのです」と祈る男の声がしたのです。
この祈りにベンハーの心は砕かれていきました。敵メッサラへの復讐心から解放され、ベンハーは「自由」を獲得したのです。それは憎しみの束縛から「愛の自由」への解放でした。
聖書は力強く語っています。
イエス・キリストは私たちを愛して、その血によって私たちを罪から解き放ち、また、私たちを王国とし、ご自分の父である神のために祭司としてくださった方である。(黙示録1:5、6)
あなたも、イエス・キリストを信じて、本当の自由をぜひ体験してください。
(C)マルコーシュ・パブリケーション
榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書『希望の声』(マルコーシュ・パブリケーション)は、同師がラジオ番組「希望の声」で伝えたメッセージをまとめた珠玉のメッセージ集。放送開始25年を迎えた98年に、過去25年間伝え続けたメッセージの中から厳選した38編を紹介している。