第二次大戦当時のローマ教皇ピウス12世の列福承認について、現教皇のベネディクト16世が難色を示しているという。ピウス12世はユダヤ人団体から、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)に対し沈黙していたとして批判されているためだ。AFP通信が伝えた。
ピウス12世の列聖を申請したピーター・ガンペル神父が18日にイタリアの通信社に語ったところによると、列福の前段階である列福調査は5月8日には終了しているが、教皇はユダヤ人との関係を考慮し、未だ手続き書類への署名を行っていないという。
教皇は今月初め、ピウス12世の没後50年を記念してローマで行われた世界司教会議(シノドス)の場でピウス12世を擁護した上、近々列福したいとの意向を表明したことで、出席したユダヤ教のラビ(宗教指導者)たちの反発を招いた。
同会議に参加したユダヤ教の大ラビは講演でホロコーストについて言及し、「多くの人が、偉大な宗教指導者を含め、わたしたちの仲間を救おうとして声をあげることをせず、沈黙を守り、極秘裏に手を差し伸べる道を選んだ、という悲しく苦しい事実を忘れることは出来ない」と、名前こそ出さなかったがピウス12世に対して批判的な見解を示していた。
しかし、戦時中のバチカンのユダヤ人へ対する対応に関しては賛否両論が分かれている。実際、イタリアが敗戦し、ナチスがローマを占領した際、多くのユダヤ人がバチカンでかくまわれ市民権を得ることを許された。そのため戦後、イスラエル政府はピウス12世に対して「諸国民の中の正義の人」賞を授けている。同賞は、亡命を求めるユダヤ人に政府の命令に反してビザを発給したことで知られる杉原千畝氏らも受けているもの。
一方で、当時のバチカンは第一次大戦のベネディクトゥス15世の対応に倣って「不偏」を主張。ナチスによるユダヤ人迫害に対して明確な非難を行なわなかったとして、戦後に厳しい批判を受けることとなった。