イスラム教の棄教を理由に約30年前に処刑されたイラン人牧師の墓が、家族に無断で撤去されていたことが分かった。家族は再び心を傷つけられたとし、国際社会にこの問題を訴えている。イランの迫害情報を伝える「アーティクル18」(英語)が伝えた。
撤去されたのは、フセイン・スードマンド牧師の墓。スードマンド氏は13歳だった1960年、夢でイエスを見たことでイスラム教からキリスト教に改宗。当時はイラン革命の前で、スードマン氏は聖書協会などで活発にキリスト教活動に従事したという。牧師としては、イラン中部の都市イスファハンの教会や、イラン第2の都市マシュハドのアッセンブリーズ・オブ・ゴッドの教会を牧会した。しかし1990年、イスラム教の棄教を理由に逮捕され、同年12月3日に39歳で絞首刑により処刑された。家族は葬儀を行うことも許されず、遺体はマシュハドにある墓地の片隅に、名前の記載もない墓石の下、埋葬された。
しかし、スードマンド氏の家族が昨年12月3日の記念日に墓地を訪れると、無記名の墓石さえなくなり、更地になっていたという。現在、欧州に住んでいる娘のラシンさんは、アーティクル18に次のように語った。
「殉教した牧師の家族の一員として、私たちの父に対するこの非礼により、私たちは再び心を傷つけられました。私たちの父は、法律に反して残酷に殺されました。そして、人々が『呪われた場所』と呼ぶ場所に埋葬されました。私たち家族は、それも知らされず、また父の亡骸に会い、最期のあいさつをする機会も与えられませんでした」
スードマンド氏は逮捕後、拷問され1カ月間にわたり独房に監禁された。一時釈放された際には、友人らが海外亡命を勧めたが、次のように語ったという。
「私は、群れの偉大な牧者である主イエス・キリストに倣い、羊たちのために自分の命を犠牲にすることを望んでいます。これらの危険から逃げることは、神の群れの力を弱め、彼らを失望させるでしょう。私は彼らに対して悪い見本にはなりたくありません。ですから、再び収監され、必要であれば私の命を彼らに与えることさえも覚悟はできています」
そして、再収監されてから2週間後、イスラム教の聖職者らによる特別裁判で棄教により有罪とされ、絞首刑に処せられた。家族にそれが知らされたのは処刑後のことだった。
アーティクル18によると、イランでは他にも処刑された牧師は複数いるが、公式な裁判所の命令により、イスラム教の棄教を理由に処刑されたのは、スードマンド氏が唯一だという。