【CJC=東京】教皇ベネディクト十六世が「教会の生命と使命における神の言」を主題に召集した、世界司教会議(シノドス)は10月6日から実質協議に入った。現代のカトリック者にとっての聖書の意義を扱う今回のシノドスには、カトリック以外の各教会代表が参加するほか、ユダヤ教から初めてイスラエル・ハイファの大ラビ、シェアー=ヤシュフ・コーエンが、ユダヤ人が聖書をどう読み、理解するか、について講演するというので注目を集めていた。
講演でコーエン氏は、聖書についてユダヤ教の理解を語った後、ホロコースト(ナチによるユダヤ人大量殺害)に触れ、「多くの人が、偉大な宗教指導者を含め、わたしたちの仲間を救おうとして声をあげることをせず、沈黙を守り、極秘裏に手を差し伸べる道を選んだ、という悲しく苦しい事実を忘れることは出来ない。わたしたちはそれを許せず、また忘れることは出来ない。あなたがたが、欧州でつい昨日に起きたことに対するわたしたちの痛み、わたしたちの悲しみを理解することを望む」と、教皇ベネディクト十六世始め、枢機卿、司教ら253人の参加者を前にして語った。この部分は準備文書には盛り込まれていなかった。
コーエン氏が当時の教皇ピオ十二世に直接言及はしなかったのは、枢機卿やバチカン(ローマ教皇庁)当局者の中の古くからの友人に配慮したとも見られるが、同氏が、戦時下の教皇を聖人にする計画には反対だ、と語っていたことは確か。
コーエン氏は、シノドスが9日にピオ十二世の死去50周年を記念する公開ミサを行うことを知らされていたら、シノドスでの講演を引き受けなかったと、講演直前にロイター通信に述べていた。「同じ集まりの中で行われるとは知らなかった。もしも知っていたら、あの痛みがなおここにあると思うので、来るのを控えたかもしれない」と言う。
コーエン氏の発言にバチカン側は当惑を隠さず、無視を貫いている。ラビがシノドスで講演するのは「革新的」と報じていた、機関紙ロッセルバトレ・ロマノは、コーエン氏がシノドスにいたことすら無視するように黙殺した、と英カトリック週刊誌『タブレット』が指摘している。
バチカン当局は、一方でピオ十二世の戦時下の活動を擁護、批判には取り合わない構えのようだ。ユダヤ人との宗教関係委員会の委員長ヴァルター・カスパー枢機卿は、ユダヤ人をホロコーストから救うために、教皇は出来ることは何でもやったと確信している、と語った。