映画「はたらく」のメディア・招待者向け試写会が1日、東中野キングスガーデン(東京都中野区)で開催された。3年の歳月をかけて作られた渾身(こんしん)の作品は、障がいを持つ1人の青年の働く姿を通して、誰にも確かな役割が与えられていることに気付かせ、日々生きづらさを抱える人々に生きる希望を指し示す映画だ。
この映画を制作した「ロゴスフィルム」代表で映画監督の齋藤一男さんは2005年、日本バプテスト連盟中野バプテスト教会で洗礼を受けたクリスチャン。07年から知的障がい者の集う福祉施設で非常勤職員として働きながら、映画の製作、配給、宣伝まですべて行っている。また、自宅を開放してロゴス教会として開拓伝道もしている。
常に弱さの中にある人の側に身を置き、生きることの意味や愛することの尊さを撮り続けてきた齋藤監督。4本目となる今回の映画「はたらく」では、実際に自閉症のある「しょうへいさん」を主役に、「仕事、働く、幸せ、豊かさ、福祉とは何か」を観る者に問い掛ける。そして今回も、ドキュメンタリーとフィクションが溶け合った独特の映像作品となった。
物語は、映画監督のさいとうがしょうへいさんに新作映画「はたらく」の主演を依頼するところから始まる。さいとう監督の申し出に快諾するしょうへいさん。その時からしょうへいさんの仕事は「演技をする」ことになる。ただ、自閉症のあるしょうへいさんにとってルーティン作業でない演技の仕事は難しいことが多く、演技がなかなかできない。頭を抱えてしまうさいとう監督に、一緒に練習をする3人の俳優仲間が与えられる。彼らの協力により、しょうへいさんの「演技力」は徐々に引き出されていく・・・。
齋藤監督がしょうへいさん役の長田翔平さんに出会ったのは10年ほど前。長田さんは、齋藤監督が映画製作の資金作りのために働くことになった福祉作業所の利用者だった。
「今回の映画は、10年間という長年にわたる関係がなければ撮ることはできなかった。しかし、付き合いがどんなに長くても、長田さんを知ることは不可能。それが、映画という媒体を通して、これまで気付くことのなかったたくさんの長田さんに出会えた。映画には、自分を表現することのできる力がある」
映画の中で、なかなか演技ができないしょうへんさんに悩み、「はたらくとは何か」を考えるさいとう監督がひもといた聖書の言葉は、ローマの信徒への手紙12章3~21節だった。
「・・・わたしたちは、与えられた恵みによって、それぞれ異なった賜物を持っていますから、預言の賜物を受けていれば、信仰に応じて預言し、・・・慈善を行う人は快く行いなさい」
この聖句から、神様はそれぞれの人に対して明確な召しを持っておられることを改めて感じずにはいられない。
どんな人間にも限りない可能性が神様によって備えられていることを、しょうへいさんは示してくれる。しかしクリスチャンは、一人一人が重んじられる存在であることを知っているにもかかわらず、障がいがあることでその人を「障がい者」という枠に押し込め、その能力の限界を勝手に決めつけてしまってはいないだろうか。それは優しさからではなく、そのほうが楽だからだ。
同作品に出てくる3人の俳優仲間は、自分の時間をしょうへいさんの演技のために割く。自分たちが演技をしてしまえば簡単に済むことなのに、繰り返し教え、どうしたらうまくいくかを何度も話し合っている。そこには豊かな愛が満ちている。自分の時間を他の人に使うことほど尊いことはないからだ。
齋藤監督は、人が働くことを通して「福祉とは何か」についても問い掛ける。「『福祉』が意味する人の幸せや豊かさは、『仕事』にも当てはまる。『福祉』と『仕事』は、互いに生かし合うことができ、互いが互いを必要とすることではないか」
映画「はたらく」一般公開試写会などについては告知記事を。
映画「はたらく」予告編 第1弾 from ロゴスフィルム on Vimeo.