来年1月公開予定の三浦綾子原作映画「母―小林多喜二の母の物語」(主演:寺島しのぶ)の撮影が今秋、いよいよ本格的に始まる。メガホンを握るのは、クリスチャンの山田火砂子(ひさこ)監督(現代ぷろだくしょん)。これまで数々の名作を手掛け、世に送り出してきた。
「現代ぷろだくしょん」では、1953(昭和28)年に小林多喜二の『蟹工船』を映画化。山田監督の夫、山田典吾が製作した。それ以来、多喜二の母を描いたこの作品の映画化は、山田監督の悲願でもあり、メガホンを握る手にも力が入る。
主演の寺島しのぶをはじめ、多喜二の父、末松役には渡辺いっけい、多喜二役に塩谷瞬などの実力派俳優陣を迎え、今月、静岡、神奈川、北海道などの各地で撮影を開始する。撮影開始直前の山田監督に話を聞いた。
山田監督は、1932年生まれの84歳。戦前生まれの山田監督は、戦中に経験した多くのつらい経験の中で、社会や政府への不信感を高めていった。
「『日本は戦争に勝つ』と聞かされていた。『神風』が必ず吹くのだと・・・」。しかし、第2次世界大戦末期には、全国各地で空襲が相次いだ。山田監督の住む東京も大空襲に見舞われ、辺り一面、焼け野原になった。
「全部大ウソだったわ・・・」。山田監督は、眉間にしわを寄せて話した。
終戦後は、さらに悲惨だった。物もお金も、食べるものさえなかった。
戦後、16歳で進駐軍相手のバンド活動などを始めた。その後は舞台女優を経て、映画の世界へ。プライベートでは、同じく映画監督の故山田典吾と結婚。30代で長女を出産するが、重度の知的障がいがあることが分かった。「この世は、科学では解明できないことばかり」だと感じたという。
その頃、近所の教会へ「束の間の休息」と、音楽を聞きに通っていた。「人生いいことばかりじゃないな・・・」と感じながらも、教会の音楽を聞くと、どこか安らぎ、楽しい気分になった。
50代に突入した頃、山田監督の乗る車が正面衝突する大事故を起こした。生死をさまよったが、奇跡的に回復。何かに守られているような気がしたという。
この事故がきっかけとなり、受洗に導かれた。
山田監督が代表を務める「現代ぷろだくしょん」のオフィスには、十字架が掲げられている。
「天から、たくさんの賜物を私たちは日々頂いている。私の場合は、映画を作るという賜物を与えられた。その賜物に磨きをかけるのが私の務め」と、84歳になった今も、日々の感謝とともに映画への情熱は途絶えることがない。
「映画は楽しいですか?」と尋ねると、インタビュー中、一番の笑みを見せて「そりゃ、楽しいわよ。作るのが楽しいのよ。私はね、原作を読んでいると、ワンシーン、ワンシーンが頭の中に見えてくるの。これは、こんな場所で撮りたいな・・・なんて、想像できるのね。これは、神様から頂いたものだと思うの。でも、本当に楽しいのよ」と語った。
映画には、クリスチャンも数人起用されている。女優で落語家の露のききょうさん、罪人の友主イエス・キリスト教会の進藤龍也牧師をはじめ、家庭礼拝のシーンでは、監督の強い希望でクリスチャンのエキストラを募集している。露のききょうさんは、多喜二の作家仲間の宮本百合子役で出演、進藤牧師は、小林一家を脅す棒頭役で出演する。
「私は、この映画を伝道映画だと思っているの。伝道映画を作るには、クリスチャンの助けが必要。神様への信仰を映画で表現したい」と山田監督。「この映画のテーマは、キリストの愛そのもの。キリストの痛ましい十字架上の死と多喜二の無残な虐殺を重ねているのよ」と語った。
映画のクライマックスは、教会のシーンと賛美歌で締めくくる予定だという。
「現代ぷろだくしょん」では、この映画の「製作協力券」を販売している。1枚千円の映画鑑賞チケットを購入すると、その一部が映画製作のための協力金になるというもの。100枚以上の購入で、希望者には団体名、もしくは個人名がエンドクレジットに記載される。
申し込みは、現代ぷろだくしょん(電話:03・5332・3991、ファクス:03・5332・3992、メール:[email protected])。詳しくは、ホームページ。
<製作協力券代金振込先>
郵便振替口座:00140‐7‐672706
受取人:三浦綾子原作「母」を映画にする会