『どんなことにもくよくよするな!』(イーグレープ出版)の著者、佐々木満男弁護士のコラムを連載します。ラジオ大阪で現在放送中の人気番組「ささきみつおのドント・ウォリー!」(放送時間:毎週土曜日朝11:45〜、インターネットhttp://vip-hour.jpで24時間無料配信中)でこれまでに放送された内容を振り返ります。「ミスター・ドント・ウォリー」こと佐々木弁護士が、ユニークな視点から人生のさまざまな問題解決のヒントを語ります。(Amazon:どんなことにもくよくよするな!)
「上を向いて歩こう」。坂本九さんのこの歌は、かって日本中で唱われ、外国でも大ヒットしたほどポピュラーな歌です。今でも、年配の方々の同窓会などで合唱されていますね。どんなに苦しい目に会っても、耐えられないような悲しいことがあっても、下を向いてとぼとぼ歩かないで、涙がこぼれないように上を向いて歩こう。そうすれば、明日に新しい希望を見出すことができるんだ。
あなたは今、上を向いて歩いていますか。それとも下を向いて歩いていますか。多くの人が下を向いて歩いているようですね。私も時に心が重くなり下を向いて歩いてしまいます。「ごみがちらかっている。なんて汚い道だろう」「ちゃんと舗装されていない。官庁はなんと怠慢なんだろう」「穴があいている。危ない、危ない」「うわっー、動物が死んでいる。気持ちが悪い」。下を向いて歩いていたらロクなことはありませんね。一ついやな思いを抱くと、次々にいやなことが心に浮かんできます。「そういえば、自分の部屋もちらかっていてきたないなあ」「あの仕事もまだ手をつけていない。自分はなんて怠け者なんだろう」「あの時、大失敗してしまった。今度も失敗するのだろうか」。こんな風に、いやな思いがどんどんふくらんできます。
でも、上を向いて歩くようにしたらどうでしょうか。大きな青空が広がっています。真っ白な雲が浮かんでいます。太陽が明るく輝いています。銀杏やけやきの並木には緑の葉が生い茂っています。
「自分の前には大きな可能性が広がっているんだ」「雲のように軽々と浮かんで生きていけるんだ」「希望の光はいつも明るく輝いているんだ」「たくましく成長して、豊かな繁栄を楽しむぞ」。こんな風に、明るく健全な思いがどんどんふくらんできますね。
ある時、用事で町を歩いていました。五月晴れで本当に気持ちよい日でした。すると、前の方から、肩をがっくり落として、地面を見つめながらとぼとぼ歩いてくる人がいました。どこかで、見覚えがある顔だなぁと思いながらお互いに通り過ぎていきました。
しばらくして、その男性が高校の同じクラスの山田という同級生であることを思い出しました。
あわてて彼を追いかけて、「お〜い、山田!」と呼びかけました。
彼は、驚いて振り向くと、「なんだ、佐々木じゃないか」と言いましたが、逃げるようにしてそのまま歩いて行きます。「よう、よう、せっかく久しぶりに会ったんだから、ちょっとお茶でも一緒に飲もうよ」。私はさらに追いかけて、彼の手をつかんでこう言いました。「いや、悪いけどちょっと用事があるから今日はだめだよ」という彼を無理に説得して、近くのカフェに入りました。
「おい山田、お前ちょっと様子がおかしいぞ。何かあったんじゃないか。こんな所ですれ違ったのもいい機会だ。話してみろよ」。コーヒーを飲みながらこう言うと、彼は観念したらしくボソボソと話し始めました。
「実は、仕事で失敗して会社を首になってしまったんだ。家内とはうまくいかず、ずっと前に別れたんだ。最近はうつになって、なにもやる気がしないよ。この年になってオレもうだめだよ。どうやって死のうかと考えながら歩いていたんだ」。こう言うではありませんか。「ところでお前何やってんの。元気そうでうらやましいぜ」と言うので、「オレは弁護士やってるけど、いろいろ難しい問題を抱えて結構苦労しているよ」と返事しました。
「へーっ、弁護士先生なのか、幸せでいいね」
「何言ってんの、オレの親しい弁護士が悪い事件に巻き込まれて、飛び込み自殺したばかりだよ。現職大臣が首をつる時代だぜ。何になったって大変さ」
「でもさ、オレみたいな落ちこぼれはどうしたらいいんだ。家族もない、財産もない、仕事もない、心は病んでいる。もう死ぬほかないよ、毎日死に場所を求めて下を向いて歩いているんだ。死に場所を求めてね」
「下を向いて歩いているからいけないんじゃないか?たまには逆に上を向いて歩いてみろよ。それだけでも、気持ちがよくなるぜ」
「ふ〜ん、『上を向いて歩こう』か。坂本九の歌を思い出すなぁ。今のオレは、あの歌のように一人ぼっちなんだ。上を向いて歩いたくらいで、オレの人生が変わるなんて思わないね」
「まぁ、そう言わないで。今日一日だけでいいからさ、上を向いて歩いてみろよ」
私は、何度も「上を向いて歩いてみろよ」と彼に言って、名刺を渡して別れました。その日、私が上を向いて歩いていたら、あまりにも気持ちがよかったからです。
数週間後、彼からメールが届きました。
「佐々木君、先日はありがとう。あの時、お前が呼び止めてくれなかったら、オレは今頃はこの世にはいなかったと思う。あまりにしつこく言われたので、お前と別れてから、上を向いて歩いてみたんだ。ずっと、夜中まで上を向いて歩いてみた。夜空もすごくきれいだった。歩きつかれたのか、その晩は数ヶ月ぶりにぐっすり眠れたよ。目が覚めたら久しぶりにいい気分になれて、自殺を思い止ることができたんだ。今でもつい下を向いてしまうが、できるだけ上を向くようにしているよ。なんとなく、希望がでてきた。もう大丈夫だと思う。また落ち込んだら連絡するから、その時はよろしく頼む」
どうでしょうか。あなたも今日から上を向いて歩いてみませんか。
佐々木満男(ささき・みつお):国際弁護士。宇宙開発、M&A、特許紛争、独禁法事件などなどさまざまな国際的ビジネスにかかわる法律問題に取り組む。また、顧問会社・顧問団体の役員を兼任する。東京大学法学部卒、モナシュ大学法科大学院卒、法学修士(LL.M)。