前回までに、ビジネスマン時代のこと、また牧師となってからのことを中心として記した。今回からは、ビジネスマンと牧師の両方の体験を踏まえながら、生きること、働くことが苦しいビジネスマンに対しての提言をさせていただきたい。
今牧師となってビジネスマン時代のことを振り返るとき、労働における聖書的な原則をきちんと踏まえて仕事を行うことが、ビジネスマンのバックボーンとしてとても大切であるということをあらためて思わされている。
(1)労働の聖書的原則〜生きること、働くことが苦しいあなたへ
労働というのは、人間の行う多くの働きを含み、必ずしも企業などで働くことを意味しない。家事やボランティアなども立派な労働である。また、学校で学ぶことすらも労働ということができるであろう。このように考えると私たちは、教会で過ごすよりも労働に費やす時間の方が、圧倒的に多いのではないであろうか。それ故労働は、私たちの生活そのものと言うことができるし、その労働がどのようであるかは、私たちにとってとても大切な問題である。
職業というのは、それによって暮らしが成り立つ労働だけを意味し、労働の一部にすぎない。本コラムにおいては、職業という言葉の代わりに仕事という言葉を用いているが、それは仕事の方がより一般的であり、分かりやすいと思うからである。ここでは主として、労働の内の仕事を念頭において述べることとする。それは、企業などの社会の中で働くことの方が、家事やボランティアなどで働くことよりも、一般的にはより厳しい状況下にあると思われるからである。特に今日の企業の置かれている状況は、金融のグローバリゼーション、IT化や情報化の急速な進展、世界的マーケットでの企業間の競争、それに伴う倫理観の欠如、環境問題等々、私が会社で働いていた頃よりも、より変化や混迷の度合いを強めているように思われる。
ではそのように変化の激しいとき、私たちは仕事において実を結ぶために、どのようにそれに取り組んでいけばよいのであろうか。それは一言で言うなら、仕事に対する神の御心、すなわち神が願われる仕事とはどういうものかをよく知り、その方向に従って仕事を行うということである。
しかし残念ながら、実情は必ずしもそうなっていないように思われる。ビジネスマンから牧師となり、教会の牧会活動を通して今私が思わされていることは、キリスト者のビジネスマンは、神から多くの特別恩恵を受けることができるはずなのに、多くの場合、そうなっていないのではないかということである。神はキリスト者のビジネスマンに、多くの特別恩恵を与えたいと願っておられる。それ故、もし神の特別恩恵を十分に受け取っていないとすれば、それは神が願われる方向に従って仕事を行っていないからということができよう。
神が願われる方向に従って仕事を行うためには、まず神が願われる労働、その一部としての仕事、の聖書的原則をよく知ることが必要である。そこでここでは、ビジネスマンが労働を行う際の聖書的原則について、幾つかのことを述べる。多くのビジネスマンの方々が、この聖書的原則に従って労働を進められ、神の特別恩恵を十分に受けられるようになることを心から願っている。
なお、内容の一部は、私の拙著『働くことに喜びがありますか?』〔1〕からの抜粋である。またこの章では、その他の多くの本を参考ならびに引用させていただいた。それらの本については〔 〕内に番号を付け、下記に参考文献として記した。より詳しい内容を知りたい方は、そちらの方を参照していただきたい。
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(参考並びに引用資料)
[1]門谷晥一(2006年)『働くことに喜びがありますか?』NOA企画出版
[2]ジョン・A・バーンバウム、サイモン・M・スティアー(1988年)『キリスト者と職業』村瀬俊夫訳、いのちのことば社
[3]山中良知(1969年)『聖書における労働の意義』日本基督改革派教会西部中会文書委員会刊
[4]カール・F・ヴィスロフ(1980年)『キリスト教倫理』鍋谷堯爾訳、いのちのことば社
[5]唄野隆(1995年)『主にあって働くということ』いのちのことば社
[6]宇田進他編(1991年)『新キリスト教辞典』いのちのことば社
[7]山崎龍一(2004年)『クリスチャンの職業選択』いのちのことば社
[8]ケネ・E・ヘーゲン『クリスチャンの繁栄』エターナル・ライフ・ミニストリーズ
[9]D・M・ロイドジョンズ(1985年)『働くことの意味』鈴木英昭訳、いのちのことば社
[10]唄野隆(1979年)『現代に生きる信仰』すぐ書房
[11]ルーク・カラサワ(2001年)『真理はあなたを自由にする』リバイバル新聞社
[12]ヘンドリクス・ベルコフ(1967年)『聖霊の教理』松村克己&藤本冶祥訳、日本基督教団出版局
[13]ピーター・ワグナー(1985年)『あなたの賜物が教会成長を助ける』増田誉雄編訳、いのちのことば社
[14]ケネス・C・キングホーン(1996年)『御霊の賜物』飯塚俊雄訳、福音文書刊行会
[15]エドウィン・H・パーマー(1986年)『聖霊とその働き』鈴木英昭訳、つのぶえ社
[16]遠藤嘉信(2003年)『ヨセフの見た夢』いのちのことば社
[17]唄野隆(1986年)『主に仕える経済ライフ』いのちのことば社
[18]東方敬信(2001年)『神の国と経済倫理』教文館
[19]E・P・サンダース(2002年)『パウロ』土岐健治&太田修司訳、教文館
[20]松永真里(2001年)『なぜ仕事するの?』講談社
[21]厚生労働省編(2005年)『労働経済白書(平成一七年版)』国立印刷局発行
[22]ダニエル・フー「Goal-Setting」、国際ハガイセミナー資料(2005年、シンガポール)
[23]ジョン・ビョンウク(2005年)『パワーローマ書』小牧者出版
[24]ジョン・エドムンド・ハガイ(2004年)『聖書に学ぶリーダーシップ』小山大三訳、ハガイ・インスティテュート・ジャパン
[25]国際ハガイセミナー資料(シンガポール、2005年7月)
[26]ポール・J・マイヤー(2003年)『成功への25の鍵』小山大三訳、日本地域社会研究所
[27]国内ハガイセミナー資料(名古屋、2004年11月)
[28]三谷康人(2002年)『ビジネスと人生と聖書』いのちのことば社
[29]安黒務(2005年)「組織神学講義録、人間論及び聖霊論」関西聖書学院
[30]平野誠(2003年)『信念を貫いたこの7人のビジネス戦略』アイシーメディックス
[31]マナブックス編(2004年)『バイブルに見るビジネスの黄金律』いのちのことば社
[32]マナブックス編(2006年)『バイブルに見るビジネスの黄金律2』いのちのことば社
[33]山岸登(2005年)『ヤコブの手紙 各節注解』エマオ出版
[34]野田秀(1993年)『ヤコブの手紙』いのちのことば社
[35]デイビッド・W・F・ワング(2008年)『最後まで走り抜け』小山大三訳、岐阜純福音出版会
(その他の参考資料)
・林晏久編(2004年)『刈り入れの時は来た—ビジネスマン・壮年者伝道ハンドブック』いのちのことば社
・大谷順彦(1993年)『この世の富に忠実に』すぐ書房
・H・F・R・キャサーウッド(1996年)『産業化社会とキリスト教徒』宮平光庸訳、すぐ書房
・鍋谷憲一(2005年)『もしキリストがサラリーマンだったら』阪急コミュニケーションズ
・マックス・ヴェーバー(1989年)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』大塚久雄訳、岩波書店
・小形真訓(2005年)『迷ったときの聖書活用術』文春新書
・ウォッチマン・ニー(1960年)『キリスト者の標準』斉藤一訳、いのちのことば社
・ロナルド・ドーア(2005年)『働くということ』石塚雅彦訳、中公新書
・共立基督教研究所編(1993年)『聖書と精神医学』共立基督教研究所発行
・生松敬三(1990年)『世界の古典名著・総解説』自由国民社
・バンソンギ「キリスト教世界観」石塚雅彦訳、CBMC講演会資料(2005年)
・William Nix, 『Transforming Your Workplace For Christ』, Broadman & Holman Publishers, 1997
・ミラード・J・エリクソン(2005年)『キリスト教神学』第三巻、伊藤淑美訳
・ヘンリー・シーセン(1961年)『組織神学』島田福安訳、聖書図書刊行会
・ジョージ・S・ヘンドリー(1996年)『聖霊論』一麦出版社
・ウィリアム・ポラード(2003年)『企業の全ては人に始まる』大西央士訳、ダイヤモンド社
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門谷晥一(かどたに・かんいち)
1943年生まれ。東京大学工学部大学院修士課程卒業。米国ミネソタ州立大学工学部大学院にてPh.D.(工学博士)取得。小松製作所研究本部首席技監(役員待遇理事)などを歴任。2006年、関西聖書学院本科卒業。神奈川県厚木市にて妻と共に自宅にて教会の開拓開始。アガペコミュニティーチャーチ牧師。著書に『ビジネスマンから牧師への祝福された道―今、見えてきた大切なこと―』(イーグレープ)。