過日、高知県立美術館で開催されているミレー展を見てくることができました。しばし19世紀のフランスのバビルゾン派の画家たちの絵に親しむことができました。フォンテーヌブローの森ののどかな風景の中に慎ましく生きている人々の日常が描かれていて、自然を愛する思いが伝わってきました。
ミレーの代表作である「種まく人」は、実際に見るとやはりその力強さが伝わってきました。それは厳しい大地と自然の中でなんとか将来を切り開いていこうとする貧しい農民のたくましい姿でありました。画面の奥の方に牛を操る農夫が描かれていますが、そこに光が当たっていて、なにか将来に希望が見えているような感じを与えてくれます。
ミレーのもう一つの傑作である「晩鐘」も遠近法が見事に用いられていて、近くの農夫の夫婦の祈る姿と遠くの教会の景色とが素晴らしく呼応しているように、この「種まく人」の場合も、遠くの牛を操る人と近くの種まく人とが呼応しているように思います。牛が耕していった土地に後から種をまいていく人との共同作業であって、力を合わせながら将来に向かって懸命に前進しようとする農民の、力強くたくましい姿を描きたかったのではないかと思います。
解説によると、当時の農民たちは社会的にあまり顧みられなかった人々で、絵の題材にされることはほとんどなかったようです。ミレーが農民に、それも貧しい農民を絵の題材にしたということそのものが革命的なことであったようです。社会の中で光が当てられていなかった人々に光を当てて、世に知らしめたということがミレーの大きな業績であったということでした。
ミレーは信仰深い両親や親せきの人々の中で生まれ育ったようです。彼がそのように社会の中で脚光を浴びていない人々に目を留めて、それでもなんとか生きようとしている人々のたくましさに光を当てようとしたことは、イエス・キリストがなさったことと同じことではなかったかと感じます。キリストはまさに、当時の社会で日の当たらなかった人々のところへ出向いて行って、神の恵みを届けたお方であったと思うのです。
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福江等(ふくえ・ひとし)
1947年、香川県生まれ。1966年、上智大学文学部英文科に入学。1984年、ボストン大学大学院卒、神学博士号修得。1973年、高知加賀野井キリスト教会創立。2001年(フィリピン)アジア・パシフィック・ナザレン神学大学院教授、学長。現在、高知加賀野井キリスト教会牧師、高知刑務所教誨師、高知県立大学非常勤講師。著書に『主が聖であられるように』(訳書)、『聖化の説教[旧約篇Ⅱ]―牧師17人が語るホーリネスの恵み』(共著)など。