神に立ち返る異邦人
使徒の働き15章12節~21節
[1]序
1節から11節では異邦人への宣教をめぐり、エルサレム教会で教会会議が開かれるようになった経過について見ました。ペテロはコルネリオ(10章)の実例に基づき力強い弁証をなし、人々に強い影響を与えました(7~11節)。
続いてバルナバとパウロが発言しました(12節)。コルネリオの場合と同様、彼らが従事した宣教旅行(13、14章)においても、神ご自身が主イエスの恵みによって異邦人を救われた事実を語り告げます。
ペテロとパウロ・バルナバは、異邦人の救いについて根本的に一致しています。13節から21節に見るヤコブの主張も同じです。
12節から21節では、「異邦人」ということばが繰り返し用いられ(12節、14節、17節、19節)、異邦人の救いの恵みを中心に展開されています。
[2]判断の根拠
ヤコブは、19節以下に見る異邦人への宣教ついて、大切な判断を二つの事柄を根拠(14節から18節)にくだしています。
(1)事実に基づいて
ヤコブは、エルサレム教会会議の中心人物として、「兄弟たち。私の言うことを聞いてください」(13節)と語りだし、ペテロがコルネリオの実例について主張した内容(7~11節)を要約しています(14節)。コルネリオの実例に基づき、主なる神が異邦人を顧み、その中から御名をもって呼ばれる民をお召しになったと確認しています。
ヤコブの判断の土台は、事実です。バルナバとパウロの宣教旅行での経験については、パウロたちが直接報告した直後で(12節)、改めて言及しなかったと推察されます。しかしコルネリオの実例同様、パウロたちが宣教旅行で経験した事実を、ヤコブが判断の根拠にしていることは確かです。
(2)聖書の証言に基づいて
次に「預言者たちのことばもこれと一致しており」(15節)と、聖書の証言を判断の根拠にしているとヤコブは明らかにします。
アモス9章11節を引用し、ダビデの王座が廃墟に帰するばかりでなく、再び確立される、それはキリストの王国においてであるとアモスの預言と成就を理解しています。
キリストの王国が建てられるときには、ユダヤ人だけでなく異邦人によっても、神の御名が唱えられ、彼らは主の御名で呼ばれる聖なる者として神の民に加えられるとヤコブは受け止めています。福音宣教に応答することにより、ユダヤ人とギリシャ人の差別なく、主イエスに従う。福音宣教を通し、アモスの預言は成就している事実をヤコブは洞察。
[3]判断の内容
(1)原則
ヤコブは、「私の判断では、神に立ち返る異邦人を悩ませてはいけません」(19節)と、神に立ち返った異邦人もユダヤ人も等しく神の民であり、神ご自身が受け入れていることを明らかにしています。2節に見るパウロや、10節に見るペテロの立場と一致するものです。
(2)より具体的に
20節では、神に立ち返る異邦人に対して、偶像礼拝と不品行を避けよと警告しています。生活を導く具体的な指針を与えているのです。
[4]結び
ヤコブは、異邦人が神に立ち返るのは一方的な神の恵みによるのであり、割礼は要求されないと原則を明示。同時に、神の恵みによって救われた異邦人キリスト者たちがどのように注意深く生き、恵みを無駄にしないように歩むか指針を与えています。
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宮村武夫(みやむら・たけお)
1939年東京生まれ。日本クリスチャン・カレッジ、ゴードン神学院、ハーバード大学(新約聖書学)、上智大学神学部修了(組織神学)。現在、日本センド派遣会総主事。
主な著訳書に、編著『存在の喜び―もみの木の十年』真文舎、『申命記 新聖書講解シリーズ旧約4』、『コリント人への手紙 第一 新聖書注解 新約2』、『テサロニケ人への手紙 第一、二 新聖書注解 新約3』、『ガラテヤ人への手紙 新実用聖書注解』以上いのちのことば社、F・F・ブルース『ヘブル人への手紙』聖書図書刊行会、他。